第4章 黒の組織にて
~別サイド FBI~
「なに?」
私はその報告に耳を疑った。とある養護施設の監視。そして、その対象者が忽然と姿を消してしまった…という報告だ。
「も、申し訳ありません!! 昨日の夕時までは姿を確認出来ていたのですが、朝方、施設が騒がしくなり、調べてみれば対象者がいない……と…」
私は頭を抱えるように椅子に座った。…しまった。どうやら私たちは、あの勘のいい子に、自分が監視されていると気づかせてしまったようだ。あの赤井くんが認めていた潜在能力を存分に発揮して、彼女は消えた。監視の期間を短くすればよかった…。だが、後悔先に立たず。私は部下を下がらせ、彼の携帯に電話をかけた。
「……はい」
彼はすぐ出てくれた。赤井くんは今、とある組織に潜入しているため、定期連絡以外なるべく連絡を断つようにしてたのだが……。
「何か問題でも?」
「ああ…。まず私はキミに謝らないといけない」
そして、私は報告があったとおりに彼に説明した。しばらく間があり、そして彼はため息をついた。
「…逃げ出す前、あいつは屋根に登らなかったか?」
「屋根?………あぁ、屋根で横になっていたらしい。あそこが彼女の昼寝場所らしいからな」
私は報告書を見て、そう答えた。昼寝場所に屋上…しかも屋根の上を選ぶとは、中々子供らしからぬ身体能力だと思ったが。
「…あいつには、何かあった際、心を落ち着かせるために屋根に登る癖がある。」
「……なるほど。それを見逃した時点で、我々の負けは決まっていたようなものだな」
すまない…私はもう一度彼に謝った。
「……いや、俺にも非はある。伝えておけばよかった。あいつの性格を1番知るのは俺なんだから」
「しかし…」
彼はそういうが、あの年頃の子が、1人で生きていける確率はかなり低い。しかも彼女は天涯孤独の身。頼れる場所も人もない。
「……今、捜索に当たっているんだか……一向に消息がつかめない」
さすが君の娘だな。そう言うと、彼は電話越しで微かに笑ったように思えた。
「心配はない。あれには生きる術を叩き込んである。1人でも生きていける術をな」
そして、何かあったら電話する…そう言って彼は電話を切った。
私は受話器を手に握ったまま、息を細く吐いた。彼はああ言ったが、彼女はもう生きてはいまい。私はもう一度電話をかけた。彼女の捜索を中止させる電話だ。
