第9章 スコッチと幹部昇進
「ただいまー」
私は欠伸をしながら、通りで待機していた青い車の中に入った。運転席から顔を覗かせた彼は、髭をそった顔で私におかえりと微笑んだ。
「学校はどうだったか?」
そしてニコニコと笑顔で話す彼…スコッチは車を発進させ、器用に車を避けながら私にそう問いかけた。私は笑顔で頷く。
「うん!! 元太くんが給食でカレーを3杯おかわりしてたの!! 昨日の記録を更新してた」
「それは凄いな!!」
たわいもない学校の話が、彼にとっては何よりも嬉しいらしい。度々、笑顔で話す私をバックミラーで確認し、そして自分も笑みを浮かべるのだ。まるで、私の幸せが自分の幸せのように。
「……あっ!! そう言えば、ジンの奴また仕事を投げつけてきたぜ。人遣いが荒いよなぁ」
信号待ちで、大きくため息をつきヤレヤレという素振りを見せるスコッチ。私もそれに同意する。
「そうそう。ウォッカも振り回されて大変だよね」
「確かにな」
ミラー越しに顔を見合わせてクスクスと笑う私たち。スコッチとたわいもない話をするこの時間は嫌いではなかった。屈託のない笑いをこぼすこの男と一緒にいると、自分も普通の世界を生きているような錯覚に陥る。私はそう言えば…と口を開いた。
「こっちに仕事が回ってきたってことは、ままの仕事が大変になってきたってことだね。まま…元気かなぁ」
ピシッ…そのような張り付いた空気が車内を包んだ。私は気づかない振りをして外の景色を見ている振りをする。
「そ……そうだな。あいつ……ちゃんと飯食ってるといいな………」
明らかに動揺するスコッチに、私はうんと頷く。
「バーボンまで倒れちゃったら、ウォッカが過労で死んじゃうもん」
私が茶化すようにくすくすと笑うと、スコッチはどこかホッとしたようにそれに同意する。……この様子だと、まだ彼と連絡を取り合っていないようだ。私はスコッチと共に行動することになった…あの時の出来事が頭を過ぎり、さらにくすくすと笑う。