第7章 殺しの任務
俯く私に男は椅子に座らせ、自分は飲み物を入れに私に背を向けた。………結構上にあがったな。私は窓の外を見つめた。どこに行くのかと思いきや、エレベーターに乗り、最上階のボタンを押す男。その間も私の手を離さず、ずっと何かを話し続けている。私はそれに反応を示さず、ずっと俯く演技をする。その方が比護欲をくすぐるでしょう?
「はい。ジュースでいいかい?」
ちらりと開いた冷蔵庫を覗いたが、中身は子供の好きそうなお菓子や飲み物ばかり。私はこの男の性癖に寒気がしたが、頷いた。
「可哀想にね」
男は私の頭を撫で、そして微笑んだ。僕が守ってあげるともう何回目になるか分からないセリフを吐く。
「なにか食べたい物はあるかい?」
「………チョコレート食べたい」
チラッと男の顔を見て言うと、男は立ち上がり、冷蔵庫の方へと向かった。その隙に、私は彼の飲み物に薬を入れた。戻ってきた男に何食わぬ顔をし、チョコレートを受け取った。
「ところで、名前を聞いてなかったよね?」
彼がその飲み物を飲んだことを確認し、私は彼の顔を見た。彼はニコッと微笑んだ。
「…………………」
私は黙って首を振った。名前を言うのは、何故かはばかれた。男の目がギラりと光った。
「あの女に名前を教えるなと言われたのかい? 全く、本当にやってくれたもんだ。だから女は信用ならないんだ」
ブツブツと頭を抱える男。私は思わず椅子から立ち上がった。
「運命だと思った。君が僕の手から離れてしまって、数年……やっと見つけた」
私を見る顔に狂気じみたものを感じた。男はカップの中身を全て飲み立ち上がった。男が顔に手を当てる。
「あの紛争地域で生きてるとは思わなかったが………これでやっと君は僕のものだ」
私はその顔を見てドアに向かって走り出した。男の足元に落ちたのは、男の顔を型どったもの。その顔に扮していたその男の本当の顔は、私のターゲットだった。