第7章 殺しの任務
「……いない…か」
私は思わずふぅっとため息をついた。入口のボーイに聞いたが、ターゲットらしき男も現れていない。これは…作戦中止かな。しかし、もう一度確かめてから報告しようと、私は会場に戻った。
「お母さんは見つかったかい?」
会場に戻るなり、男が待ち伏せていように私の前に現れた。彼は私に食べ物が乗ったお皿を渡し、微笑んだ。私はひきつる顔を抑え、丁重にお断りし、辺りを見渡した。…………やはりターゲットはいない…か。ずっと喋りかけてくる男を軽く無視し、私は首を傾げた。これだけ探してもいないということは、彼はここにいないということだろう。だが、作戦を中止は私が判断することではない。それを伝えようにも、先程からスコッチは応答しないまま。
「体調が悪いのかい?少し休もうか」
私の肩に男が手を置いたかと思うと、その手がどんどん下へと下がっていく。私は嫌悪感から思わず彼から距離をおこうとしたところで……
「なっ……なんだお前は!?」
その男の手を誰かが掴んだ。その人は、綺麗なブロンドの長い髪に、整った容姿をしていた。そして、男にニコリと微笑むと、その容姿からは意外ではあるが少し低い声で、
「その子の母親です」
と言った。私はそれをポカンッと見つめていた。周りはその華麗な美女の登場に目を奪われ、ザワついていた。彼女は一体何者なのか…と。後ろには従者の男が付いており、私の方を見て困ったように笑いかけた。
「行きますよ。お父様が待っておられます」
男の手を離し、優雅に私に差し出したその手を、私は躊躇なく取った。
「まま! 今日は来られないんじゃなかったの?」
明るい声でそう言いながら、私は内心ではなんでこのふたりがここにいるのか不思議でたまらなかった。従者の格好をしているのは、もちろんスコッチ。そして、一見華がある女性に見えるこの人は、誰でもないバーボンそのひとだった。