第8章 体育祭、その前日譚
「私の“エネルギー操作”も緑谷君の個性と同じで、かけ過ぎちゃうと身体を壊しちゃうんだよね。丁度、緑谷君のする怪我みたいに。」
「そうなの!?」
「そうなの。だから他人の筋力の増強もできるけど、手軽に使うのは難しいんだよ。」
他の人に使う時は、せいぜいその人の身体能力を10%だけ上げるくらいの気持ちでやってると言うと、オールマイトと緑谷君にめちゃくちゃ低い!?と叫ばれた。いや、普通に考えて増強系の個性を持っていない人に対して10%上げられるんだから意外と有用だよ?威力はしょぼいけど。
「勿論、鍛えてる人に対してはもっと上限が上がるよ?でも、どれだけ上げれるかはその人の鍛え方次第だし、それは見ただけじゃ当然わからないからね。それなら、いっそ鍛えてない前提でかけた方が安心じゃない。」
「確かに……。」
「で、今回やる特訓なんだけど……どれくらいのレベルから活性かけていこうか。2倍くらいやっちゃう?」
「いきなり安全圏の10倍からやるの!?!?」
ひぃっ!?って驚いた声を出すけど、あんな超パワー振り回してるんだから2倍でも低いと思うんだけど。そもそも、ほぼ指先の力だけで705.3mのボール投げ記録を緑谷君は出している。で、その前に相澤先生に個性を消されて投げたのが確か46mだったかな?指先だけの記録と腕全体での記録だから対比は難しいけど、筋力を2倍に引き上げたとしても全力に対してほんの数%にしかならないと思う。ほんと、緑谷君の個性ってとんでもない。頭の回転が速い緑谷君がそれをわかっていないとは思わないけど……めちゃくちゃ怖がってる。
「怖いならまずは安全圏の10%から試してもいいけど……余裕だと思うよ?」
「とりあえず、安全が保障されてる10%からでお願いします……」
随分げっそりした顔で緑谷君がお願いしてくる。うーん、心配性なのかな。無理やりやらせるのもよろしくないから、リクエスト通り10%程強化させる円を緑谷君の右腕に作る。
「かけた強化はその範囲の筋肉を使った瞬間に効果が発揮されるから、一度パンチを打ってみてくれる?」
「わかった。せいっ!」
ぶんっと勢いよく右腕が前に突き出された瞬間、右腕を囲んでいた円が散る。腕の様子も特に変わらないし、緑谷君から痛みを訴えるような声も聞こえない。うん、やっぱり10%じゃ軽すぎるよね。