第8章 体育祭、その前日譚
それだけ言って、さっさと扉を開けた電車に乗る。こんなことしてもすぐ同じ電車に乗ってくるのなんて知ってるけど、少しぐらいびっくりすればいいんだよ。
窓越しに見た焦凍の顔はぽかんと口を開けていて、そして一気に赤く染まる。慌てて電車に乗り込んできた焦凍にすぐに捕まっちゃったけど、上手く言葉に表せないでいる焦凍は耳まで赤く染めながら片手で顔を覆っている。そして、逃がさないと言わんばかりに私の手を握ったまま家に着くまで離してくれなかった。
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緑谷君と特訓をする約束をしてから数日後、訓練場の使用許可を貰えたって緑谷君が嬉しそうに私に話しかけてきた。他の人も申請を出しているから、取れたのは合わせて三日間。どれくらいで感覚を掴めるようになるのかわからないけど、この三日間の内には習得してもらわないと。
授業が全て終わった放課後、改めて私と緑谷君、そして監督として参加することになったオールマイトと一緒に訓練場にやってきた。
「緑谷少年の個性は下手をすると大怪我をしてしまうからね!しっかりと見させてもらうよ。」
「お願いします、オールマイト!」
「まさか、ほんとにオールマイトが参加してくれるなんて……緑谷君、凄いな。」
改めて緑谷君の図太い精神にびっくりする。いや、だって聞いてみるって言ってたけど、本気で聞いて、尚且つ来てもらえるとか思わないじゃない?だから、正直相澤先生辺りが来るかな?って想像してたんだけど……。これ、思った以上にオールマイトは緑谷君を気にかけてるよね。いっそ、緑谷君がオールマイトの弟子とか言われた方が納得いくんだけど。
……まぁ、考えていても仕方がない。早速特訓の内容についてすり合わせていこう。
「さて、これから緑谷君が個性を制御できるようになるための特訓をするわけだけど……まずは、緑谷君の身体がどこまで耐えられるのか限界値を調べないとだよね。」
緑谷君の力は他の増強系に比べて力が圧倒的に強い。そのまま制御もせずに力を使うとすぐに身体が壊れてしまうほどに。全力を出せないなら、出力を抑えればいい。とはいえ、身体を壊しながら限界値を知っていくのはよっぽど根性がない限りは厳しい。だから、私が“エネルギー操作”で徐々に力を上げることで己の限界値を知ろう!という話だ。