第8章 体育祭、その前日譚
「……なぁ、何を話してたんだ。」
「体育祭に向けて特訓する話をしてたんだ。お昼の時、お手伝いしようか?って私から言ったの。」
とうとう焦凍の方から話を切り出してくる。じっと私を見つめる目と目を合わせながら、極力いつも通りに振舞って私も答える。
「緑谷の?なんで、奏が……」
「緑谷君、まだ個性の調節できてないでしょ?体育祭、あれじゃ困ると思って。活性なら、身体を壊さない限界を掴むのに丁度だろうし。」
嘘は言ってない。緑谷君はあのままだと苦労するし、体育祭に向けて特訓するのも当然。ただ、どうして私が緑谷君を気にするのか。そこをどう誤魔化そう……。悩んでいる間に、焦凍の顔がどんどん険しさを増していく。
「……やっぱり、緑谷のこと気になるのか。」
「焦凍?」
「今まで、そんなに気にする奴いなかっただろ。なんで急に……」
ちょっと、待った。なんだか、全然違う方向に話が進んでいってる気がする。あれか、妹に急に彼氏ができた心境みたいな、そんなのに陥ってる!?うっ、そう思うと家族として以外は意識されてないみたいでちょっと傷つく……。いや、そうじゃない、まず誤解を解こう、そうしよう。
「焦凍、とりあえず落ち着いて。困ってるように見えたから、手伝おうかって言っただけだよ。」
「そうだったとしても、ここまで手を貸すのは初めてだ。奏は、あいつが……緑谷が、好きなのか?」
「へ?いや、違っ」
「嫌だ。」
何も聞きたくないとでも言うように、私の返事を待たずに焦凍は私をきつく抱きしめる。ちょっと待って!人がいないとはいっても、ここ駅のホームなんですけど!?!?
ぎゅうぎゅうと締め付けるような抱きしめ方は、兄妹がするような親愛のハグなんかじゃない。もっと自分に縫い留めようとするような、そんな抱きしめ方。そう、まるで嫉妬しているかのような……
「……ずっと、隣にいるんじゃねぇのかよ。」
「いるよ、ずっと隣に。焦凍が望んでくれるなら、いつまででも。」