第8章 体育祭、その前日譚
律儀に教室前の集団に問いかける飯田君や、文句を言う峰田君を差し置いて爆豪君が苛立ちを隠さないまま入口へ近づいていく。やっぱり、戦闘訓練の時やUSJでの時も思ってたけど爆豪君ってめちゃくちゃ頭の回転が速い。口の悪さや態度、喧嘩っ早さで隠れてしまいがちだけどセンスも能力もある。ほんと、なんというか色々勿体ない人だって思う。
「そんなことしても意味ねぇから。退け、モブ共。」
「知らない人のこと、とりあえずモブって言うのやめなよ!」
入り口前に立っても退く様子を見せない集団に向かって、爆豪君は言い放つ。あんまりな言いように飯田君がロボットみたいに腕を振りながら爆豪君を叱るけど、ちっとも聞いちゃいなさそうだ。そして、爆豪君の言葉を聞いて人混みから出てきたのは紫色の髪をした、隈の濃い男子。彼曰く、体育祭の結果次第では普通科に所属している人もヒーロー科への転入を検討してもらえるのだとか。だから、敵情視察ではなく宣戦布告しにきたと彼は言った。
紫髪の男子に触発されるように、隣のB組も爆豪君に宣戦布告を叩きつけようとしたものの、それをあっさりスルーしながら教室を出ていこうとする。これだけの状況を作っておいて、あっさり帰ろうとする爆豪に怒った切島君が爆豪君を引き留める。
「待てこら、爆豪!どうしてくれんだ。お前のせいでヘイト集まりまくってんじゃねーか!」
「あぁ?関係ねぇよ。」
「はぁ?」
「上にあがりゃあ、関係ねぇ。」
ぐっとこちらを睨みつけながら爆豪君は言って、今度こそ教室から出ていった。一瞬しか見えなかったけれど、真っ赤なルビーにも似た瞳は静かな闘志で燃えていた。いつも、ボンボンと爆破させながら怒鳴り散らすくせに。それだけ、本気ということだろうか。
さて、爆豪君も教室を出たわけだし焦凍をあんまり待たせる訳にはいかない。爆豪君が出ていった方向をぼんやりと見たまま固まっている緑谷君の腕を取って軽く引いてやると、びっくりするぐらい肩を跳ねさせて私を見た。
「あっ、至情さん!?」
「ここじゃ話にくいし、どこか移動しよう。」
「あ、えっと、うん……。」