第8章 体育祭、その前日譚
「……お前の事情を教師である俺達はある程度知ってる。No.2ヒーロー・エンデヴァーがお前と轟に指名を入れてくるだろうってことも、予想はつく。だから、あえて言うぞ。お前の高速戦闘は十分上を目指せる技術だ。変な遠慮も、手加減もするな。全力でやれ、至情。」
「えっと……はい、がんばります?」
「言いたいことはそれだけだ。昼飯行っていいぞ。」
ぽんぽんと相澤先生に軽く頭を叩かれる。これは、激励のつもりなのかな。ホームルームで分かりやすく浮いちゃったから、気にされたとか……?大人の人に頭を叩かれるって初めてで、ちょっと気恥ずかしくなりながら挨拶して職員室から出る。……出てから頭を触ったのは、内緒だ。でも、これだけ早く呼び出しが終わっちゃうなら焦凍に待っててもらえばよかったかも。一人でのお昼ってちょっと寂しい……。まだ焦凍がお昼食べてるところかもしれないし、早く食堂へ行こう。
先生達がいないことをいいことに、廊下を走る。角を曲がり、丁度仮眠室の前を通ろうとした時、からりとドアが開いて見えたもふもふの髪。やばい、ぶつかる。
「うわっと!?」
「あいたたた……ごめんね、緑谷君!」
車は急には止まれない。私も、急には止まれない。早く行けば間に合うかもって思ったけど、やっぱり廊下は走るべきじゃない……。けど、細身に見えて結構鍛えてるなぁ緑谷君!まさか、ぶつかった私の方がしりもちつくことになるなんて。これでも、スピードに影響でない程度には鍛えてるのに……ちょっとショックだ。
「大丈夫?」
「平気だよ。ぶつかっちゃってごめんね。」
心配そうに差し出してくれた手をありがたく借りて立ち上がる。でも、どうして緑谷君が仮眠室から?……焦凍じゃないけど、相当眠かったとか?不思議そうに仮眠室と書かれた札と緑谷君とを見比べていると、緑谷君は苦笑する。
「えっと、やっぱり不思議に思っちゃう、よね。」
「うん。そりゃ勿論。」
「その、オールマイトにお昼誘ってもらっちゃったんだ。」
「オールマイトに!?緑谷君、目をかけてもらってるんだね……。」