第8章 体育祭、その前日譚
「――当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれれば、その場で将来が開ける訳だ。年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら、絶対に外せないイベントだ。その気があるなら、準備は怠るな!」
雄英に入り、日本中が熱狂するイベントに自らが出場するのだということ、そしていい成績が残せればトップヒーローにスカウトされるかもしれないというチャンスにクラスの殆どが燃えているのが伝わってくる。だから、その中であまり乗り気じゃない人は自然と浮いてしまうもの。……私と、緑谷君だ。でも意外。あれだけヒーローになりたいっ!って主張しているような人なのに一体どうして……。
気にはなるものの、ホームルームが終わったら次は授業の時間。少し浮ついた雰囲気を残したままいつもの時間が始まった。
――
セメントスの授業が終わってお昼休み。授業終わりに相澤先生から“授業が終わり次第職員室に来るように”と伝言を預かったとセメントスに言われ、ついてくると言って聞かなかった焦凍を食堂に向かわせてから一人職員室のドアの前に立つ。失礼しますと声をかけながらドアを開くと、ほとんどの教師はご飯を食べに行っているのか残っていたのは私を呼んだ相澤先生とプレゼントマイクだけ。相澤先生の隣に立ってるし、仲良しなのかな?
「おっ!お前のクラスの奴が来たぜ、イレイザー!」
「来たか、至情。」
「遅くなってすみません。何かありましたか?」
こいこいと手招きされるままに相澤先生とプレゼントマイクの方へ近づく。合理主義な相澤先生の机だからきちっとしてるのかと思ったけど、本が積み上げられていたりと整理はされていないようだ。
「呼んでおいてなんだが、大した用事じゃない。体育祭での選手宣誓の話だ。」
「実技入試でトップだったからな!宣誓の文章を考えといてくれって話だ!一つ、クールなのを頼むぜリスナー!」
「マイクのことは気にするな。普通でいい。普通で。」
「はぁ。」
そういえば、最近びっくりすることが多すぎて忘れかけていたけど私が実技入試で一番だった。受かった時はあんなに嬉しかったのに。インパクトって恐ろしい。プレゼントマイクには悪いけど、無難なもので終わらせてしまおう。