第2章 入試試験
着替えて、朝食も食べて、準備万端の状態で玄関から外に出る。雪は降ってないものの、きんと冷えた空気で体が少し震える。カイロ持ってきて正解だった。ポケットに入れたカイロを探しながら道にでると、ジャージ姿の焦凍が表札の前に立っていた。
「走り込みにいくの?」
「ああ。だから、ついでに送ってく。」
ん、と差し出された左手を取るかどうか一瞬迷って視線を逸らす。途端、暖かい手が私の右手首を掴んでぐっと前に引かれる。引かれるままに足を動かして足早に歩く焦凍に追いつこうとすると、スピードを緩めて私が隣に来るように歩いてくれる。隣からじんわりと暖められた空気が伝わってくるのは気のせいじゃなくて、焦凍が個性で暖めてくれてるから。
「私、走るつもりないよ?」
「わかってる。送った後に走るから気にすんな。」
それだと走り込みの方がついでになっちゃうんだけどなぁ。焦凍の優しさに口元を緩ませながら気遣いに甘えようと距離を縮める。カイロは、また後で使えばいいよね。隣に並べば、手首を掴んでいた手が離されて手を繋ぎ直される。その時に私の右手の甲にある核石に焦凍の指先がかすってじんと疼くのを感じながらも、その感覚には口を閉ざした。
「あったかい……」
「そうか。」
「ありがとう焦凍。」
「使えるから使ってるだけだ。」
「嘘つき……。」
今更繕ったって焦凍が自分の左側を憎くんでる事なんて知ってるし、私がそれを知ってる事もわかってるはずなのに。強がりを言う焦凍の左手を強めに握ってやると、焦凍は笑う。
「嘘じゃねぇ。お前になら、使ってもいい。」
「焦凍……」
「ほら、足動かせよ。受験生が遅刻したら笑えねぇ。」