第2章 入試試験
焦凍の表情筋はいつからだったか……少なくとも、小学校の頃からその務めを放棄していてほとんど動かない。その代わり目がとても正直で、今だって自分の……親父のせいかと追い込んで暗く淀んでいる。半分ずつ紅白に分かれた特徴的な頭をちょっと撫でまわすと、イケメンでちょっとだけ目つきの鋭い大人びた幼馴染がちょっとだけ頬を赤らめてこっちを睨む。その目には、もう淀みは見つからなかった。
「いつまで撫でるつもりだ。子供じゃないんだぞ。」
「あはは、焦凍がかわいいからついね。」
「目つき悪りぃ男のどこがかわいいんだ。」
「人のかわいさを決めるのは容姿だけとは限らないんだよ、焦凍。」
素直で天然なところのある焦凍は、真面目に私が言った言葉の意味を考え始める。そういうところがかわいいんだけどもね。
座ったままの焦凍を避けて、昨日のうちに机の上に用意しておいたかばんの中身を検める。受験票、筆記用具、ジャージ、タオル、スマホ、上履き等……必要な物が一通り揃っていることを手早く確認してかばんのチャックを閉じる。ちらっと時計を確認すると、起きる予定の時間からは10分くらいしか変わらない。これならしっかりご飯も食べれるし、起こしてくれた焦凍様様だね。
「焦凍、私着替えるから先にご飯食べておいでよ。」
「わかった。」
頷いてすたすたと扉へ向かう焦凍を確認して壁に掛けてある制服を手に取る。着替えようとパジャマのボタンを1つずつ外して、いざ脱ごうとした時にはっと気がつく。……そういえば扉の閉じる音聞いてないね?
「奏、やっぱり俺はかわいくないと思う。」
「うん。納得いってないのはわかったからドア閉めようか。」
後ろから投げかけられた声に振り向かず答える。ドアを閉めなかったのはまだ部屋から出てないぞって気遣いだろうし、焦凍にそういった裏がないのはよく知ってるから許すけど……本来ならアウトだぞ焦凍。