第5章 戦闘訓練
――奏side
私達の訓練は、無事にヴィラン組の勝利で終わった。いやぁ、流石八百万さん。まさか、絶縁体まで作れるとは。お蔭で電気の個性を持つ上鳴君を簡単に捕縛できたし、やっぱり八百万さんの個性は汎用性が高い。
上鳴君を捕らえちゃえば後はこっちのもので、上鳴君を人質にして耳郎さんの動きを止めたら後は私の独壇場。後ろから上鳴君と同じように捕縛テープを巻いて、はい終わり。こちらに損害はなかったし、ヒーロー組にも怪我はなし。講評も上々で、非常に楽しい訓練で終わった。
他の皆の訓練も無事に終わって、後はクラスに戻って帰る準備だけ。更衣室でコスチュームから制服に着替えて、廊下を女子の皆と一緒に歩いて戻る。もう少しで夕方になる空は、ゆっくりと橙色に染まり始めていた。
「でも、奏ちゃんがあんなにノリがいいなんて私思ってなかったよ~。」
「……へ?」
今日のごはんは何かな~って冬美さんのごはんに思いを馳せていたら、急に私の名前が聞こえてきてびっくりする。私、何かしただろうか。
「あー、めちゃくちゃヴィランになりきってたよね。正直、ちょっと驚いた。」
「ああ、そのこと?せっかくの機会だからと思ってたら、つい。ごめんね耳郎さん。」
そういう訓練だったんだし、気にしてないよって耳郎さんに言ってもらえてほっとする。正直、飯田君のヴィラン役――どこぞのムスカ大佐みたいな動きを見ちゃった後だったから、ちょっと遊び過ぎた自覚はある。……うん、我ながら酷いテンションの上がりっぷりだった。幸い、定点カメラだから音声入ってないから聞こえてた人が黙っててくれたら焦凍にはばれないはず。
「奏さんも、そういうところがおありだったんですのね。実技試験トップの実力者ですし、作戦会議の時も真面目でしたので驚きました。」
「そうかな?」
「うんうん。あのクールな轟君といるし、奏ちゃんもそういうタイプなのかなって思ってた!」
めちゃくちゃ親しみやすさが増したよ~と、芦戸さんがぎゅっと抱きついてくる。口元を緩めて私も抱きしめ返せば、芦戸さんが更に嬉しそうに腕の力を強めた。ハグはとても暖かかったけど、胸の奥深くに冷たい感覚が残るのを私は確かに自覚していた。