第5章 戦闘訓練
確かに、全員のをじっと見てた気がする。通学中も、クラスの奴を気にしてた。けど、あいつそんなにクラスの奴らを気にする質だったか?いや、ヒーロー科だから個性を把握しようとしてかもしんねぇけど。
周りをよく見て、溶け込むのが上手い奴。けど、小さい頃からあいつは俺の隣にいたし、中学の時だって俺以上に仲のいいやつはいなかった。どんな時でも俺を最優先にしてくれる、それが奏だ。だから、あいつが俺以外に興味を示すなんて、少し……いや、結構ショックだった。奏があいつの、緑谷の所に行こうとしたのを見て、行くなって思っちまった。けど、個性まで使って止めることじゃなかったはずだ。奏は俺の隣にずっといる。それが当たり前だと、俺はいつの間にか錯覚しちまってたんだ。
親父に奏を許嫁にするって言われた時、勝手に決めんなクソ親父って思った。けど、それと同時に奏が隣にいる未来は悪くねぇとも思った。だから、俺は特に何も言わずにその場を去った。奏も、親父が決めた許嫁の話を「俺が好きだから」って受け入れていた。けど、それはあいつが俺以外を知らねぇからじゃねぇのか?それを、昨日のあいつを見て初めて思った。
俺以外を見ないで欲しい。そう思うこの感情はなんだ?昨日から考えてみたけどわからねぇ。わからねぇけど、許嫁という関係でいる今は奏を俺の隣に繋ぎ留めておける。奏が嫌だって言わねぇのなら、せめてこの感情に名前が付けられるその時までこの関係に甘んじさせて欲しい。
「――い、轟。とーどーろーきー。」
「お、わりぃ。なんだ。」
肩を揺さぶられてハッと前を向く。あの後からずっと俺に話しかけてたのか、ツンツン頭の奴がまだ俺の隣にいた。
「急に黙るからびっくりしたぜ。で、質問に答えてくれよ。」
「質問?……なんかあったか?」
「……お前がなんも話聞いてなかったのはよくわかった。」
大げさにため息を吐きながら、「至情の個性だよ。」と言われる。確かに、傍から見ただけじゃ奏の個性はわかりにくい。気になるのも仕方ねぇ。