第4章 波乱の個性把握テスト
『2秒04』
観測ロボットを通過したのを確認した後、勢いを緩める為に一度上へ飛んでから着地する。練習なしでの低空飛行。今回は上手くできたけど、正直個性の制御がきつすぎてもう二度とやりたくない。
走ってもいないのに脈拍の上がった胸を撫で下ろして大きくため息を吐く。走り?終わったし、邪魔にならないようにレーンの前から退いて皆の方へと足を動かしたその時。飯田君が少しだけ悔しそうな顔をしながら私の方へと近づいてきた。
「至情君!2秒とは、とんでもない記録だな。抜かれてしまうとは思っていなかった。」
「ありがとう。こういったスピード勝負は私も得意分野だから、負けたくなくて張り切っちゃった。」
「しかし、ソフトボール投げといい50m走といい……君の個性は一体?」
「あー、わかりにくいよね。私は複合個性で、“エネルギー操作”という個性を持った異形……“人魚姫”を呼び出すことができるの。」
にんぎょひめ……。名前を聞いてもわかりにくい個性名に、とうとう飯田君の頭がエンストしそうになっている。個性について説明すること自体に嫌悪感はないから、なるべくわかりやすいようにを心がけて飯田君に話していく。
”人魚姫”は、元々は私のお母さんが持っていた”ドッペル”という個性が元になっている。”ドッペル”は、個性の持ち主が抱く最も強い感情を抽象的に表した姿を取る。言わば、感情の写し身。私の場合、それがサーベルを引き連れ泳ぐ、鎧姿の人魚だった。その姿から、私はこの個性を”人魚姫”と名付けた。そして私が複合個性だった影響で、その人魚はお父さんが持っていた”活性”を扱うことができた。
”エネルギー操作”は目で見た物、あるいは空間に青い円を作り出し、その円の中の力を強くしたり、逆に弱くしたりする個性。これを上手く使うことで筋力を増加させたり、スピードを速くしたり、逆に空間のエネルギーを奪うことで一時的な壁を作ったりすることができる。ただし、一つの円につき一つの作用だけ。運動エネルギーの操作と生命エネルギーの操作等を一度に一つの円で行うことはできない。
「……なるほど。”エネルギー操作”とは、とても応用が利く個性なのだな。」
「いくら強化できても、純粋な増強系には負けちゃうけどね。ただ、飛んでしまえばスピードは一気に出せるから使い勝手いいんだよ。」