第20章 期末テスト、その前日譚
百ちゃんが穴に近づこうとすると、だんだん穴の空いた壁の方から冷気が漂ってくるのを感じて耳郎さんを壁から離して百ちゃんを引き止める。首を傾げながらも2人が私の言葉に従った、その瞬間。パキンっと聞き馴染んだ氷結の音と共に壁が穴ごと凍りつく。
「……そういうことはするもんじゃねぇって、前に言ったよな。」
「ひっ、と、轟!?お前、なんでそんな怒って……いやっ、待て待て!謝る!!謝るからその右手をオイラに近づけんなぁああ!!ひぎゃぁあああああ!!」
「謝る相手が違ぇだろ」
穴から聞こえる地を這うような低音の焦凍の声と、峰田君の悲鳴。そしてもう一度、パキンっ!と氷結の音が響いて更に壁が凍りつく。その壁を静かに見ていた蛙吹さんがひとつ頷く。
「とりあえず、不届き者は成敗されたわ。今のうちに着替えましょ。」
「さんせー。」
氷像になったであろう峰田君を心配する者は女子には誰もいなかった。
こうして、職場体験明けの学校初日は幕を閉じたのだった。
――
時は流れて6月最終週――期末テストまで残すところ1週間を切っていた。
事前のホームルームで、夏休みに林間合宿があると相澤先生から伝えられていた私達。けれど、そんなお楽しみのアナウンスだけで済むはずがなく、期末テストで赤点を取った人は学校で補習地獄だとも伝えられていた。が。
「全く勉強してねー!!!」
しかし!体育祭に職場体験、そしてヒーロー基礎学。詰めに詰め込まれたスケジュールで勉強をする時間が大きく削られ切っていたヒーロー科に、上鳴君(成績21位)の悲痛な声が響き渡った。幸い、授業にはついていけているから中間テストも6位と悪くない成績だし、赤点は取らないとは思う。けれど、中間とは違って演習もある。しっかり焦凍と一緒に勉強しないと!
無慈悲な成績5位の焦凍が成績下位組に言葉の刃でとどめを刺してしまったりと色々あったが、百ちゃんが勉強会を開くことでなんとかまとまり、その流れで全員で食堂へと向かう。私は日替わりランチ、焦凍は相変わらずの蕎麦を頼んで隣り合わせで座る。手を合わせ、ご飯を食べ始めると成績4位の緑谷君が困ったように眉を下げて口を開く。