第20章 期末テスト、その前日譚
「俺の前を行くんじゃねぇ、この金魚のフンがぁ!!!」
以前よりもスピードが上がったらしく、爆破の音がだんだん近づいてきているのを感じる。ストイックな爆豪君だもの、そりゃ負けたまんまの状態ではいないよね!
でも、私だって遠慮しない。もっと短い間隔で円を張り、速度をガンガン上げていく。後ろで叫ぶ爆豪君の声がドップラー効果を伴って小さくなっていく。これだけスピードを出せば、追いつかれることはないはず。ただ、ここまで速度を上げてしまうと、オールマイトを視野で捉えるのも至難の技になる。見逃せば、一気にトップを持っていかれてしまう。
集中し、勢いよく流れていく灰色の風景に目を凝らし、高い建物の屋上にいるだろうアメリカンカラーなコスチュームと金髪を探していく。
そして、しばらく飛んだだろうか。目が疲れてきた頃、前方にある一際高いタンクに気がつく。丁度この広い運動場の中心あたりだろうか、TEPPENと書かれた特徴的なタンク。その上に――いた。
瞬時に体勢を整え、丁度そのタンクで勢いを緩められるように距離と角度を調整して空気の足場を蹴る。私の円に気づいたオールマイトと、目が合う。
「えっ。ちょっ、至情少女!?そのスピードのままこっちに来るのは危険んん!!!」
どんどん近づく私の速度にびっくりしたらしいオールマイトが両腕をあわあわと振りながらバツを作る。確かに、知らないと怖いか。そう思って予定していたよりも手前に減速の円を作り出し、一気に失速させる。グッと胃が浮く感じに耐えてタンクの上に着地すれば、オールマイトが心臓に手を当てて大きく息を吐いた。
「あー、ビックリした。至情少女、見てるこっちが怖いからあんまりギリギリでブレーキかけないようにね!これ、プロヒーロー達はまだ冷静に見てられるけど、要救助者だと心臓に悪いよ!」
「あっ、ハイ。」
確かに。もう私は自分がどれだけ飛べて、どのくらいで着地できるかを経験上知っているからギリギリで操作している。けれど、何も知らない一般人にとってはハラハラして落ち着かないし、何より怖いだろう。
オールマイトが冷静だったかは置いておいて、そのアドバイスには素直に頷いた。