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人魚姫は慟哭に溺れる【ヒロアカ※轟夢】

第19章 伝え合う熱と、心


「……ここに座りゃいいじゃねぇか。」
「だーめ。焦凍はもうちょっとパーソナルスペースを広く持とうね。そうじゃないと、将来色々困ることになるよ。」

思った以上に不機嫌な声がでると、もう耳にタコができるくらい言われ慣れた文句が返ってくる。昔は良かったのに、いつから言われ始めたんだ?思い出そうとするが、学校の記憶なんてほとんど覚えてねぇ。せいぜいわかるのは、多分中学の頃からだってことだけだった。
思い出そうと考え込む俺が不機嫌そうに見えたのか、お気に入りのお饅頭あるよ、と雑に宥めてくる。別に、不機嫌なわけじゃねぇが、饅頭は欲しかったから奏の手から箱を貰って包装を解いていく。……緑谷と飯田も、気に入るといいんだが。

「ここの饅頭、上手いからおすすめだ。」
「へぇ、そうなんだ!」
「おう。12個入りだから、1人3つな。」

箱を持って緑谷の方へと向かい、箱を差し出す。大きな目を嬉しげに細め、ありがとうと緑谷が饅頭を取るのを見ていると、奏が俺の隣まで来て緑谷に買っておいたらしいお茶を手渡す。それを見て、ハッと閃く。

席を立っている今なら、隣に座らせるチャンスなんじゃねぇか?

途端、心が浮いて落ち着かなくなる。が、気付かれちまえば終わりだ。落ち着いて、いつも通りを心がけろ。――いくぞ、プルスウルトラだ。

――

「わ、このお饅頭美味しい!」
「だろ?」
「しかし、この店は老舗の……。俺達へのお見舞いの品にしては少々高かったのでは?」
「どうせ親父が持ってけって言ったやつだ。気にしなくていいぞ。」
「こ、高級饅頭……っ!」

病室が和気あいあいとした雰囲気に包まれる中、隣に座らせた奏だけが腑に落ちないといった表情で気配を消すように静かに座っている。触れたいと肩をくっつけるが、直ぐに横にずれて間を開けられるのが寂しい。家でなら触れさせてくれんのに……。早く家に帰りてぇ。
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