第18章 恋心の自覚
何もすることがないと、奏が受け身も取れずに落ちていく姿が脳裏を過ぎっちまう。肝が冷えるという言葉は勿論知っていた。けど、本当に凍えちまうくらい冷たくなるもんなんだってのは、知りたくなかった。
斬られる、そう思った瞬間に俺は何もできなかった。俺が守るって思っていたはずなのに。何もできなかった自分が悔しくて、手のひらを握る。――USJの後から、やっぱり俺はどこかおかしい。
体育祭で緑谷が俺の抱えてたもんをぶっ壊してくれてから、俺は“考える”ことを始めた。クソ親父の事、お母さんの事、そして……奏の事。特に、奏に関することが一番よくわからねぇ。お母さんに話をする時、気がつくと奏の話をしている。それを聞く度にお母さんは「焦凍は奏ちゃんが好きなのね。」と笑う。奏のことは好きだ。信頼しているし、なによりいい奴だって思ってる。だから、そう言われることを恥じる必要なんてない。なのにどうしてか、その“好き”という単語を聞いて顔が熱くなった。それに、守りたいって思うこの気持ち……これは、一体なんだ?
奏は強ぇ。そんなの、俺が一番よくわかってる。何年一緒に訓練受けてきたと思ってんだ。……それでも、俺の前に立って欲しくなかった。怪我をするからか?――そんなん、今更だろ。親父に扱かれる時の方が打ち身とかひでぇじゃねぇか。クソ親父はムカツクが、それでも訓練をさぼらせようとは思わねぇ。なら、殺される可能性があるからか……?――いや、それならUSJん時に庇う必要なんてなかった。あんなチンピラ程度の奴にやられるほど奏は弱くねぇ。
それに、おかしいのはそれだけじゃねぇ。体育祭の前日。奏の様子がおかしかった時だ。いつも何があっても凛とした姿を保っていた奏が、珍しく暗い表情をして俺の部屋の前に立っていた。それを見て――抱きしめてやらねぇとって思った。奏を抱きしめたことは何度かあった。けど、あんなに暖かく、胸が満たされるような感覚を覚えたのはあの時が初めてだった。奏が辛そうだったのにどうして満たされた気持ちになっちまったのか、やっぱり理解できそうになかった。
「……ダメだ。さっぱりわかんねぇ。」