第18章 恋心の自覚
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署長との話が終わると、マニュアルさんは飯田と軽く話してから事務所へ戻り、グラントリノは緑谷に小言をぐちぐちと言って聞かせてから病室を去っていった。その後すぐに暇になるのかと思いきや、そこからすぐに診察で呼び出される。最初は軽傷の俺らしい。
診察室で怪我の具合を見てもらったが、特に問題はないらしい。迎えがあるなら今日退院してもいいと言われたが、恐らく今日親父達は保須から引き上げるはず。狭い車内で親父と顔を合わせるのはごめんだ。今日は入院し、明日帰ることを医師に告げて病室へと戻ってくる。病室の扉を開けると、すぐ飯田からおかえりと声をかけられる。それに返事を返しながら中へ入ると、緑谷もスマホから視線を外しておかえりと声をかけてきてくれた。
「何してんだ?」
「昨日、皆に一斉送信で位置情報だけ送っただろ?それの説明と、無事だよって報告を送ってるんだ。」
最後に画面を一度指で叩くと、緑谷は満足そうに頷く。皆へのメッセージは無事送り終えたらしい。役目を終えたスマホを机の上に戻すと、緑谷は怪我の具合を聞いてきた。
「出血はそこそこあったが、怪我の方は特に問題ないらしい。明日退院する。」
「そっか、よかった。あのね、さっき飯田君と――」
話を続けようとした緑谷をスマホのバイブ音が遮る。震えているのは、机の上に戻されたばかりの緑谷の物。慌てた様子でスマホを取って画面を確認すると、ぱぁっと表情を明るくした。
「麗日さんからだ。ちょっと話してくるよ!」
「ああ。松葉杖だから、転ばないよう気をつけて行くように!」
「気をつけてな。」
緑谷が震えるスマホを左手で持って、右手で松葉杖をつきながら病室を出ていくのを飯田と俺で見送った。それから一分と経たない間に病室が誰かにノックされる。カラリと扉を開けたのは医師で、今から飯田の診察が始まるらしい。医師と一緒に病室を去っていく飯田を見送ってぼんやりと窓の外を眺める。……話相手、いなくなっちまったな。手持ち無沙汰にベッドの上に放りだしたままのスマホを手に持つ。通知は、変わらずなかった。