第16章 いざ、職場体験へ!
エンデヴァーさんが壁に備え付けられたパネルを操作すると、床からサンドバッグのようなヴィラン人形がでてくる。これに向かって打てばいいと。
「タイミングが掴めてきたと判断したら、次は対人で訓練を行う。では、始め!」
エンデヴァーさんの合図と同時にまずは一撃。拳が人形に当たる瞬間を狙って円を展開したものの、タイミングがズレているようでボスッと軽い音が人形から聞こえる。もう少し早く。ぐっと拳を握って、当たる寸前を狙って円を展開する。……やっぱり、遅れてしまう。
……一度展開してしまえば、その円を使うか私が消すかしない限り円の効果は続く。なら、別に当たる寸前じゃなくて拳が当たるまでに展開が終わっていればいいんじゃないの?
そう考えて、今度はより早く。攻撃した瞬間に円を展開し、殴る。すると、重い音と一緒に人形が大きく仰け反った。
「よし。ゆくゆくは意識せずとも攻撃をする瞬間で扱うことができるようになれば、より使い勝手がよくなるはずだ。」
「はい!」
「次は威力だ!強すぎる衝撃は簡単に相手を死に至らしめる!どこまでの威力が人体にとって安全か、それを覚えろォ!」
そこからは、とにかく人形を打って、打って、打ちまくる。人形に搭載されたセンサーで威力を常に測定し、オーバーキルが起こらないようにひたすら打つ。それに慣れてきたら、ついに対人形式で相手に一撃を当てる訓練。
改めて高速戦闘でこの一撃を入れようとすると、タイミングが難しい。一撃を入れるはずだったのにタイミングがズレてしまったり、気付かれて避けられたりと、これまた大変だった。
――そして迎えた終業時間。息が切れる程対人訓練を行ったおかげで、使うよう意識していれば対人戦闘でもなんとか制御できるようになったと思う。
「まだまだ甘い。が、そこらへんにいるヴィラン相手には使えそうだな。いかなる状況でも打てるよう、訓練を怠るな。」
「はい……!」
夜間勤務のサイドキックの人達を残して、私と焦凍はくったくたの身体を引きずりながら帰り支度を整えて外へ出る。来た時と同じように電車で帰ろうした私達を待っていたのは、車を運転するサイドキックの人とエンデヴァーさん。どうせ一緒の所に帰るのだからと車に乗せられ、不機嫌な焦凍に手をにぎにぎされながらの帰宅となった。ちなみに、エンデヴァーさんは解せぬ。といった顔をしていた。