• テキストサイズ

人魚姫は慟哭に溺れる【ヒロアカ※轟夢】

第15章 束の間の平穏


――

 陽が傾いて教室が橙色に染まる中、HRが終わる。休日明けの身体をヒーロー基礎学でみっちりと動かしたせいでだるそうにしている人が多い中、黙々と帰り支度を整えている緑谷君の席へと近づく。

「緑谷君、ちょっといい?」
「至情さん。何かな?」

 一体何が入っているのか、いつもぱんぱんになっているリュックに教科書を詰め込んでいた右手を止めて、そっと大きな目が私を見た。

「金髪にガリガリの人から聞いたかもしれないけど、お礼を言いたかったの。私には、無理だったから。」
「あっ、あれは、僕も余計なおせっかいをしちゃったっていうか……!むしろ、謝んなきゃいけないっていうか……」

 体育祭の件を口にすると、緑谷君はハッとした後、すぐに慌ててぶんぶんと手を振って否定する。赤くなったり、青くなったりと忙しない緑谷君の肩を叩いて、とりあえず落ち着くように促す。

「……ごめん。でも、本当にお礼を言ってもらうようなことなんて何もしてないよ。あれは、僕がしたくてしたことだから。」
「……違うよ、緑谷君。私は、そんな優しい緑谷君を利用したの。」

 ここで流されてしまえば、私は緑谷君に嫌われずに済む。けれど、それは不誠実だ。怖いけど、ちゃんと話さないと。え?と困惑した表情を見せる緑谷君を、ここじゃあ話しにくいからと言って教室から連れ出す。
……まるで、緑谷君が私に特訓をお願いした時みたい。後ろから控え目についてくる緑谷君を見てふと思う。あの時と同じように、誰もいない空き教室に二人して入る。からり、と後ろ手で扉を閉じて、窓を背にした緑谷君と向かい合った。

「えっと、僕を利用したっていうのは、轟君と僕が戦うように計らったってことでいいの?」
「そう。復讐に頑なになってた焦凍の殻を壊すには、それが一番だって思ったから。でも、ただ戦って勝つだけじゃ余計に拗らせちゃう。……焦凍のことを思って全力で戦える、そんな人を探してたの。
ピンチでも勝ちに行こうって諦めずに向かっていけて、そして相手を慮れる優しい性格。これ以上の人はいないって、そう思った。だから緑谷君に特訓の話を持ち掛けたの。体育祭で、勝ち残ってもらうために。」
/ 272ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp