第15章 束の間の平穏
午前の授業が終わって、お昼時。いつものように焦凍と一緒の席に座って、買ってきた生姜焼き定食に舌鼓を打つ。隣で蕎麦をすすっている焦凍の表情は柔らかい。今なら聞けるかも。
「焦凍、希望体験先どうするの?」
「親父んとこにするつもりだ。」
あっさりと返ってきた答えに目を瞬かせる。……憑き物が落ちたように穏やかな顔をするようになったとは思ってたけれど、まさかここまで変わるもの?
緑谷君にきっかけを貰って、そして病院で玲さんに会ってきてふっきれたらしい焦凍は、いつのまにか置き去りにしてきた人間性をすっかりと取り戻していた。……あんなに苦労したのに、変わる時は一瞬なんだなぁ。
「お前、すげぇ顔してるぞ。」
「だって、まさか焦凍からエンデヴァーさんの所に行くって言いだすとは思わないじゃない……。」
私がそう言うと、「だよな。」とこれまたあっさりと頷いてくる。
「お母さんにしたことを許すつもりなんてねぇ。ただ、そんな奴でもNo.2なんだ。何もかもを否定する前に、ヒーローとしてのあいつを知らねぇとって思っただけだ。」
「……そっか。」
きっかけを貰ったからって、急激に変わるなんてこと普通は無理だよね。焦凍は焦凍なりに前を向こうと、一生懸命になってるんだ。そんなことにも気が付かないなんて、馬鹿だなぁ私は。
十数年、血と復讐に捕らわれていた焦凍しかみていなかったから忘れていた。けど、これが焦凍なんだ。夢にまっすぐで、熱くて優しい心を持った人。そんな焦凍だから、好きになったのに。
話は終わったと、黙々と蕎麦をすする焦凍に倣って私も静かにお箸を進める。心配しなくても、焦凍はもう一人で大丈夫。私がずっと待ち望んでいた平穏が叶ったんだ。――そう思うのに、どうしてだかふわふわとした妙な気持ちが治まらない。なんなんだろう。これは。そっと胸に手を当てて、首を傾げた。