第15章 束の間の平穏
「じゃあ次アタシね!“エイリアンクイーン”!!」
次に教卓に立ち、ボードを出したのは芦戸さん。エイリアンクイーンは、流石にヒーロー名としてどうなの!?
「2!!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」
「ちぇ~」
先頭に続いて二番手までもがツッコミ所しかないヒーロー名を出している。そのせいでまるで大喜利のような雰囲気になってきているのがつらい。そもそもが勇気が必要な発表形式なのに、更にプルスウルトラされてしまった現状。
だれか、なんとかしてくれ!!きっとこの教室にいるまとも枠がこう思った――その時!教室に一条の光をもたらす女神が現れた。
「小学生の時から決めてたの。“フロッピー”。」
「かわいい!!親しみやすくていいわ!皆から愛されるお手本のようなネーミングね!」
フロッピー!梅雨ちゃんにぴったりの、可愛らしいヒーロー名。やっと出てきたお手本らしいヒーロー名に、クラスの皆が感動し、教室をフロッピーコールが埋め尽くした。
――
フロッピーに勇気づけられ、書き終わった順に続々とヒーロー名を発表していく。自分の憧れるヒーローをリスペクトした名前や、個性にちなんだ名前、そして神様の名前から取ったもの等々……。ちなみに、何も思いつかなかったらしい焦凍は、そのまま名前の“ショート”になった。
「じゃあ、次は私が。マーメイドヒーロー、“フローナイト”。」
とん、と軽い音を立ててボードを立てる。なりたい姿と言われて真っ先に思ったのは、焦凍を守る騎士。人魚姫の作る流れに乗って前線を維持する私をイメージしてつけてみた名前だけれど、私にしてはセンスがあるんじゃないかな?
「うんうん。いいんじゃないかしら。至情さんは体育祭でのイメージですっかり“人魚”が定着しちゃってるだろうから、マーメイドヒーローはぴったりね。」
にっこりとほほ笑んだミッドナイトからOKも貰えたし、少し浮かれながら自分の席へと戻る。これが、私のヒーロー名か。頼れるサイドキックとしての一歩を着実に踏み出している気がして、指先で慈しむようにヒーロー名をなぞった。