第15章 束の間の平穏
教室の中は賑やかで、電車の中で声をかけられた、応援してもらった、という声が色んな所から聞こえてくる。中でもちょっとかわいそうに思ったのは、瀬呂君の“どんまいコール”で間違いない。
自分の席に座って教科書をかばんから引き出しにしまいながら緑谷君の姿を探すけれど、姿は見えない。体育祭の後は焦凍に促されるまま早く帰っちゃったから、まだお礼とごめんねを言えていない。放課後にでも言えたらいいんだけど……。
焦凍とゆっくり話して時間を潰していると、予鈴が鳴なる。しん、と静かになった教室のドアをからり開けて、包帯が綺麗に取れた相澤先生が入ってきた。相変わらず、眠たそうにゆっくりと教卓の前まで歩いていって、資料を置いた。
「相澤先生包帯取れたのね。良かったわ。」
「婆さんの処置が大げさなんだよ。んなもんより今日の“ヒーロー情報学”、ちょっと特別だぞ。」
梅雨ちゃんの安堵の声をさらりと流しつつ、相澤先生が今日の授業の説明をする。……普段の相澤先生が凄く威圧感があるからなのか、どうしても“今度は何を言われるんだ……!?”という緊張感が教室を満たしていく。
「“コードネーム”。ヒーロー名の考案だ。」
「胸膨らむヤツきたぁあああああ!!」
重苦しい緊張感が一気に霧散し、テンションの上がった数人がスタンディングオベーションを決める。当然、騒ぐのは合理的ではないので相澤先生の個性込みの鋭い視線がクラス全員――主に、スタンディングオベーションを決めたパリピ組に――に決まり、よく調教されたクラスが一瞬で静寂を取り戻した。そんな私達にため息を吐きながら、相澤先生が続きを話しだす。
「……というのも、先日話した“プロからのドラフト指名”に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2,3年から。つまり、今回来た“指名”は将来性に対する“興味”に近い。卒業までにその興味がそがれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある。」
私達は雄英に入ったばかり。当然、もっと長い期間ここで学んでいる先輩達に比べたら鍛練も経験も足りていない。先生が言うことも最もだ。だけど、やっぱり生徒としては一度もらえた指名は確保しておきたいのが本音。キャンセルもあると聞いた峰田君が、大人は勝手だ!と机を叩いた。