第14章 体育祭の終わりと、スタートライン
それからは、色々なことを母さんに話した。雄英に通っていること。学校で何をしたか。ずっと、母さんを追いつめてしまったことを悔やんでいたこと。ずっと、親父を否定することしか考えていなかったこと。でも、その考えを体育祭で戦った相手――緑谷に、ぶち壊されたこと。
母さんは俺に泣いて謝り、そして驚くほどあっさりと笑って赦してくれた。“俺が何にも捉われずにつき進むことが幸せであり、救いになる”そう言ってくれた。母さんがそう言ってくれるのなら、俺は今度こそオールマイトのようなかっこいいヒーローになる。
――ふと時計を確認すると、早くに来たはずなのにもう針が昼頃を指そうとしている。あんまり長居をするのも母さんにストレスをかけてしまうし、なによりお昼はゆっくり取りたいはずだ。座っていた椅子から腰を上げ、母さんにそろそろ帰ると伝える。
「そう……。また、来てくれる?」
「うん。次は、奏と一緒に来る。」
奏も母さんに会いたがっていた。そう伝えると母さんは嬉しそうに微笑んだ。
またね。と手を振る母さんに緩く手を振り返して、病室を出る。そっと息を吐くと、がんじがらめにされていた重い心がするすると解かれていくような、そんな感覚が身体を満たす。
ずっと、たった一つのことしか見てこなかった。そんな俺は、きっと色々な物を蔑ろにしてきたんだろう。奏が俺の左のことで苦しんでいたことに気が付かなかったのが、その証だ。けど、もう自分がなりたいと願うものを見失ったりなんかしねぇ。
「……随分遠回りしちまった。これから、追い付かねぇと。」
実力が下だと、そう軽く見ていた相手は自分より遥かにヒーローらしい奴だった。負けてなんかいられねぇ。俺だって、ヒーローになる。日の当たる道に向かって、俺は一歩前へと足を踏み出した。