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人魚姫は慟哭に溺れる【ヒロアカ※轟夢】

第14章 体育祭の終わりと、スタートライン


――轟side

 朝、いつもの時間に目を覚ます。ゆっくりと身体を起こして未だにぼんやりとする頭のままのんびりと支度を整える。今日お母さんの病院に行くことは、まだ奏にしか言ってねぇ。きっと、姉さんが知ったら驚くに違いない。
着替えてリビングに顔を出すともう姉さんと奏が起きていて、朝食の準備をしていた。おはよう、と声をかけてきた奏に挨拶を返し、目の前に置かれた朝食を食べる。

「焦凍、どこか行くの?」
「……病院。母さんに、会いに行く。」
「え……!」

 朝食を食べようと、俺の前に座って手を合わせた姉さんの手から箸が落ちる。……驚くとは思ってたが、そこまでか?もくもくとご飯を食べていると、姉さんが不安そうに俺を見る。

「どうしたの?急に……。焦凍が母さんに会いに行くのは嬉しいけど、無理してない?」
「平気だ。」

 そりゃあ、不安がないなんて言えば嘘になる。拒絶されたら、泣くかもしんねぇ。でも、もう決めたんだ。奏に言った通り、きっとお母さんはまだ俺に……親父に、囚われ続けてる。だから、俺がこの身体で、全力で再びヒーローを目指すには、会って話を……たくさん話をしないと。たとえ望まれてなくたって、助け出す。それが、俺のスタートラインだ。
 心配性の姉さんは、俺が家を出る直前まで不安そうに俺に声をかけてきた。それでも、俺は歩みを止めない。電車を乗り継ぎ、住所しか知らなかった病院に足を踏み入れる。そして――震える手を握り締め、母さんのいる病室の扉へと手をかけた。
 鉄格子のはまった窓。その窓の手前に椅子に座った母さんが写真を手に座っていた。ぼんやりと窓の外を眺めている母さんに声をかける。ゆっくりとこちらを振り返った母さんの目は穏やかで、懐かしいような、泣きたくなるような、そんな感覚が胸を満たした。

「……焦凍?」
「……うん。」

 俺の姿を確認した母さんは静かに涙をこぼし、そして会いたかったと言ってくれた。伸ばされた手に誘われるように近づいて、触れる。小さい頃に抱きしめてくれたその手は、随分細くなってしまっているように感じた。
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