第14章 体育祭の終わりと、スタートライン
行きと同じように電車に揺られて家に帰ってくると、心配そうな顔をした姉さんと奏に出迎えられた。でも、その心配そうな顔は俺の顔を見たとたんにスッと溶けていく。そして、二人が顔を見合わせて、嬉しそうに笑った。
「おかえり、焦凍。」
「……ただいま。」
二人の自然な笑顔をみて、じんわりと心が暖かくなるのを感じる。その熱が移ったかのように、二人一緒に声を合わせた“おかえり”に返した“ただいま”は、思った以上に優しい声になって口から出ていく。たった一度ぶっ壊されただけで、これほどまでに変わるのか。
上機嫌で台所へと向かう姉さんの背中を見ながら、奏と一緒に家に入る。一緒に登下校してんだ。だから、特別なことでもなんでもない。そのはず、なのに……なぜか、とても嬉しいと感じた。そして、目の間で揺れる奏の右手。その手にある核石の色は、いつもの優しい青色を取り戻している。触りてぇ。そう思った瞬間、気が付いたら俺はその手を掴んでいた。
「焦凍?」
「……わりぃ。」
不思議そうに投げかけられた声を聞いて、慌てて手を離す。なんでかわかんねぇけど、奏に触れていたい。でも、触れていると心臓の音がうるさくなる。……なんでだ?
初めて感じる不思議な感情を持て余しながら、俺は奏の隣を歩く。
……歩いている間に何度もその手を取っては離すという行動を起こしてしまうことを、今の俺は知らない。