第14章 体育祭の終わりと、スタートライン
身内がヴィランにやられた……。それは、ヒーローを身内に持つ身であるならば心していることでもあり、そしてあまりにも酷な話だ。
飯田君のお兄さんは、あの“インゲニウム”。インゲニウムは多くのサイドキックを雇っていて、人気も高く有名なヒーロー。それだけ有名なヒーローともなれば、弱いはずがない。そんな強い人が、身近な人が、やられてしまった。
轟家がちょっと複雑なだけで、普通強いヒーローを身内に持つ身なら、その人を誇り高く思ったりするはず。特に、ヒーローという職業に強い憧れを持っているように感じさせる飯田君なら尚更に。だからこそ、この事実は飯田君の心を深く抉ったに違いない。
どうか、無事であって欲しい。そう思いながら、先生に連れられて焦凍と一緒にフィールドの方へと移動する。フィールドに用意された表彰台、その1位の座には――がっちりと拘束された状態の爆豪君がじたばたと暴れていた。
「……なにこれ。」
「んん~~~~~!!!」
猿轡を噛まされて碌に声も出せていないけれど、めっちゃくちゃ今の状況が不満です!!と言っているのは伝わってくる。1位で何が不満なのか。そう考えた時、ちらりと心当たりが思い浮かぶ。
「……もしかして、焦凍が左を使わなかったから怒ってる?」
「んん~~~~!!!!」
思わず出した疑問が聞こえたのか、爆豪君が目を80度くらい吊り上げて私を睨みつけた。……やっぱり、何を言っているのかさっぱりだ。でも、“ったりめぇだろ!馬鹿か!”って言われた気がする。
「はいはい。締まらない1位だけど、もうそこは仕方ないわ。轟君は2位の台に。至情さんは3位の台に立ってね。」
パンパンと両手を叩いて行動を促すミッドナイトの言う通りに私と焦凍がそれぞれ台に立つ。そして、体育祭に参加した生徒達が表彰台の前に並んだのを確認すると、ミッドナイトがマイクを持った。
『それではこれより!!表彰式に移ります!』
その言葉を合図に、会場の上空を色とりどりの空砲と観客の歓声が彩った。報道陣の方から何台ものテレビカメラがこっちへ向けられていて、かなり緊張する。私達表彰者に向けられたカメラの前にミッドナイトがそっと入りこみ、そして艶やかにウインクを飛ばす。