第13章 対決、爆豪
「はっ、得意の速さが通じなくて残念だったなぁ?」
「別に、読まれるのは想定済みだよ。ただ、次の手を切るだけ。おいで、“人魚姫”」
右手の甲にある核石を晒し、私は“人魚姫”を呼ぶ。一瞬核石に人魚の影が映り、そしてずるりと影が現実へと現れる。じわじわと色が滲むように、灰色の影はその実体を形作る。
上半身を覆う鈍色の無骨な鎧、そして下半身にはくすんだ青色の鱗。巨体の周りには付き従うように何本ものサーベルが浮遊する。私の背後、フィールドの外を浮遊する巨大な人魚は、すいっとまるで指揮棒を振るうかのようにサーベルを掴んだ手を振り上げた。
『至情!なんかでっけぇ人魚を呼び出した!なんだあれ!』
『あれが、至情の個性だ。両親の個性が複合した結果、“個性を持つ異形を召喚する個性”を至情は持ってる。呼び出すのが人魚だから、“人魚姫”と呼んでいるらしい。』
『人魚姫って、もっとかわいいもんじゃねぇ?』
『知るか。』
プレゼントマイクの素直な感想にちょっとだけ苦笑いが零れる。“人魚姫”と大層な名前をつけたけれど、そんな名前が似合うような姿の異形じゃないもんね。“姫”という割には薄汚れていて……どちらかというと、怪物寄りの醜い姿をしていると思う。
そう思うのに、昔の私はどうして“人魚姫”なんて名付けたのか……よく覚えていない。ああでも、小さい女の子は皆プリンセスに憧れるもの。多分、私もその内の一人だったってことなんだろうね。うん。
さて、過去のことは置いておいて試合に集中しよう。人魚姫は私の感情の写しであるらしいけれど、私が指示を出さないと動かない。でも全く意志がない訳じゃないようで、一度教えたことならしっかりと記憶する。それを利用して私の動きに合わせて足場を作ったり、瞬時に背後に下がる為の円を作る行動なんかはしっかりと覚えさせている。今からするコレも、その内の一つ。
私が手を上げると同時に、人魚姫によってフィールド中に数えきれないほどの青い円が丸くドームを作るかのように展開する。この空間内にいる以上、ここは私の庭であり海だ。