第13章 対決、爆豪
ゆっくりと頬を撫で続けるその手の上にそっと私の手を重ねる。優しくて暖かい、焦凍の手。この手を、左側を、焦凍の一部を、ずっと否定して欲しくなかった。けど、きっともう大丈夫。だって、焦凍が自分から左で私に触れてくれている。それが、涙が出るくらいに嬉しい。
「……でも正直このまま俺だけが救われていいのかって、迷ってる。お母さんは、まだ親父と俺に囚われたままだ。俺も、親父を憎く思う気持ちを捨てられるわけじゃねぇ。だから、俺にはまずやらなきゃなんねぇことがある。だから――」
「大丈夫。」
どんどん早口になっていく焦凍に焦りが見えて、そっと言葉を遮る。安心させるようににっこりと焦凍に微笑んで頬に触れたままの焦凍の左手を両手で包み、そっと頬から離させる。
「焦らなくていいよ。私は、焦凍が自分自身を否定しているのを見ていたくなかっただけ。だから、私はもう大丈夫。心配しないで。」
「奏……。」
「ずっと傍にいるし、ずっと待ってる。だから、焦らなくていいよ。焦凍が必要だと思うことをしてね?」
「……ああ。」
一瞬泣きそうな顔をしたけれど、焦凍は少しだけ笑ってくれた。ずっと表情筋がボイコットしていたせいでとても不器用な笑顔だったけれど、なによりも輝いて見えたのはきっと気のせいなんかじゃないよね。
「試合前に悪かった。次、爆豪とだろ。」
「うん。」
「頼むから、無茶するなよ。」
「善処するよ。」
無茶するな、かぁ。残念だけれど、それは聞けそうにない。私は焦凍の為ならばどんな無茶だってできるし、する。焦凍の為にどこまで私ができるのか。エンデヴァーさんはそれを知りたがっている気もする。
焦凍の手を両手で握ったままでいると、時間が来たらしく事務の人が躊躇いがちに私達の方へと近づいてきた。
「至情さん、そろそろ時間なので移動してくださいね。」
「はい。じゃあ行ってくるね、焦凍。」
「ああ。」
そっと手を離し、私はフィールドへと向かう。さぁ、無理だのなんだの言ってられない。負けてしまう確率の方が圧倒的に高いけど、焦凍の為なら無茶だってしてみせよう。