第13章 対決、爆豪
「ヤンキーもびっくりな殴り合いしておいてピンピンしてるんだよね、爆豪君……。それでもって一撃も重い。攻撃を受けず、一方的に攻撃して化け物みたいなスタミナを削り切れって?……しんどいなぁ。」
できないとは言わないけど……こんなのめちゃくちゃだ。作戦もへったくれもないただのゴリ押し、脳筋もいいとこだ。だけど、勝ち筋はこれしかない。ほんと、しんどいなぁ……。
『飯田君行動不能!轟君、決勝戦進出!』
作戦を練っている間に2人の試合は終わりを告げた。飯田君を拘束した氷を、焦凍は少し悩むように左手を見つめた後で溶かしていく。……やっぱり、きっかけを得たからって直ぐに使えるものじゃないよね。それでも、今までの“考える”ということを放棄していた状態よりもずっといい。
さぁ、あと15分で私達の試合が始まってしまう。急がないと。観客席にはもう爆豪君の姿はなかった。多分、勝敗がついて直ぐに控室の方へと移動したんだろう。席を立って階段を降り、電気のついた廊下を静かに歩く。控室1、そう書かれた看板のある部屋の前。焦凍が腕を組んで私が来るのを待っていた。
「焦凍……?」
「奏……。」
組んでいた腕を下ろし、私に向き合う焦凍の顔は叱られる子供のように、へにょんと眉が下がっていた。何かを言おうと口を開いて、そして悩むように視線を右往左往させる。いつも口が素直な焦凍が悩みに悩んで、ようやく口にした言葉は「悪かった。」だった。
「どうしたの?いきなり……。」
「多分、ずっと前から気付いてた。俺が左を否定する度に、お前が傷ついたような顔をしてんのを。けど、それでも俺は親父が憎かった。左を、親父の力だと信じて疑ってなかった。……だから、ずっと見ていないフリをしてきたんだと思う。」
左手をじっと見つめた後、その手を私にゆっくりと伸ばしてくる。その手を避けることはせずにじっと待っていると、優しく頬を撫でられた。
「ずっと、忘れていた。お前が、左が大嫌いだった俺に言ってくれた言葉を。忘れていた俺が言っても説得力なんてあったもんじゃねぇ。けど、あの時……俺は確かに嬉しかったんだ。大事な言葉だったんだ。」
「……うん。」