第12章 轟焦凍 オリジン
地面すれすれだと、ダークシャドウで耐えられる。吹き飛んだ常闇君に肉薄し、ジャージを掴んでまたフルスイングで大きく弧を描くように投げ飛ばす。芦戸さんの時と同じように円で場外コースまでエスコートしてあげればその身体はふわりと芝生の上だ。
『常闇君、場外!至情さん三回戦進出!』
わっと歓声が沸く中で、常闇君が悔しげな顔をしながらゆっくりと身体を起こしてフィールドの方へと戻ってくる。
「やはり、早いな。ダークシャドウがああも簡単に翻弄されてしまうとは……。」
「ふふ。それが私の強みだからね。そう簡単には負けないよ。」
そう、簡単には負けられない。焦凍の傍にいるために鍛えてきたのだから。
お互いに握手をして、ゲートの方へと戻る。とうとう三回戦。次の相手は、天敵とも言える爆豪君になるか、それとも切島君になるか……。そっと観客席の方へと視線を向けると、ギラリとした瞳と目が合う。敵意に満ち満ちた赤い瞳をにやりと細めると、爆豪君は挑発するように勢いよく親指を下げた。勝ち進む気満々だね……。
「……ほんと、ヒーローよりもヴィラン向きの性格してるわ。」
ため息を吐きながらゲートをくぐる。日の光が壁に遮られて影になった場所に、エンデヴァーさんが立っていた。
「よくやった。お前が特訓を見たのは、あの緑谷という少年だろう?見事、焦凍の炎を引き出した。素晴らしい成果だ。」
「私は、何もしてませんよ。」
「ふん。まあいい。それより試合の話だ。相手を完封したいい試合運びだ。だが、次の相手は相性が良くない。完封は難しく、投げも通じない。……勝てとは言わん。だが、無様な試合だけは見せるな。それだけだ。」
“勝てとは言わん”、か。焦凍が左を使ったのがよっぽどお気に召したのか、私に課せられた条件は少しだけ緩くなったらしい。でも、無様に負けることは許されない。全力を出して、勝つ気で向かっていくしかない。
ゆっくりと観客席の方へと戻っていくエンデヴァーさんを何も言わずに見送る。二戦とも、個性の使用は少なめで大してエネルギーも使っていない。十分な力をもって次に挑める。