第12章 轟焦凍 オリジン
「君は……」
「あ、すいません。出るの邪魔しちゃって……。」
「いや、私も急に出てきちゃったから……。」
日本人らしくお互いにペコペコと謝り合戦になっていた所でリカバリーガールから「これから手術だ、出ていきな!」とお叱りが飛んでくる。二人仲良く保健所の外へと追いやられたものの、相手は知らない人。しん……と空気が固まった。
「えっと、君は緑谷しょうね、んんっ。緑谷君の見舞いに来たのかい?」
「あ、はい。お見舞いと、お礼を言いに……。」
「お礼?」
「はい。……ずっと願ってたことを、緑谷君が叶えてくれたから。そのお礼を言いに。」
お詫びもだけれど、それはこの人に言うべきことじゃない。だから、それは言わずに胸の内へしまっておいた。
「……少し緑谷君と話をしたけれど、彼は自分の為にやったと言っていたよ。」
「え……?」
それは、嘘だ。私が緑谷君の優しさにつけこんだからそうなっただけで、緑谷君の勝ちたいって気持ちが強かったのなら焦凍を煽ったりしなかったはず。
疑いの目で骸骨のような人を見つめると、彼は困ったように微笑んだ。
「轟しょ、君は、緑谷君ではなく別の何かを見ていたから。それが悔しくて、全力で向かってきてほしくて、無茶をしたと言っていた。君と緑谷君の間に何があったのかを私は知らない。だけど、君が気負う必要な全くないし、きっと緑谷君もそれを望んではいないよ。」
――どこ見てるんだ……!!!
緑谷君が、激情を込めた声でそう焦凍に怒鳴っていたのを思い出す。いくら一番前の観客席にいたとしてもフィールドは遠くて、焦凍が緑谷君に何を言ったのかは聞こえなかった。けれど、そっか……あの時、きっと焦凍はエンデヴァーさんを見ていた。目の前で戦っている緑谷君が、きっと目に入っていなかった。
今、目の前で必死になって戦っているのに、余所を向かれていたらそりゃ怒る。けれど、あの時の緑谷君はきっとそれだけじゃなかった。悔しさと、そして優しさがあった。ほんと、緑谷君ってお人好し。だけど、とてもヒーローらしいよ。
「……緑谷君は優しい人だから、あの怪我のことを謝ってもきっと聞いてはくれないですね。だから、怪我の事は謝るのは止めて“ありがとう”だけ伝えます。私は、確かに救けてもらったから。」