• テキストサイズ

人魚姫は慟哭に溺れる【ヒロアカ※轟夢】

第12章 轟焦凍 オリジン


――奏 side

「……凄い。」

 目の前で繰り広げられた戦いは、本当に凄かった。あれだけ頑なだった焦凍に、左を使わせた。この戦いだけで、焦凍が左を使うようになることはないと思う。だって、そう簡単に積み重なってきた憎しみや痛みが消えるわけがない。けれど、きっと視野を広げるきっかけになった。復讐以外に目を向ける、そのきっかけに。
緑谷君には、感謝してもしきれない。でも、焦凍にきっかけを与えた引き換えに、緑谷君はプロからの評価を失ってしまった。
 聞こえてくるのは、“なにがしたかったんだ?”という会話ばかり。当然だ。だって、誰も焦凍のことを知らない。左を使うという意味も、知らない。知っている人が見れば、あの時の緑谷君ほどヒーローに見える生徒なんていないのに。
“オールマイトのようなヒーローになる”って目標を持っている緑谷君の瞳は、誰よりも強い意志でキラキラと輝いていたのに。私はそんな緑谷君に足踏みをさせてしまった。だから、謝らないといけない。

 ロボット達に運ばれていく緑谷君を見た飯田君達が慌てて階段を駆け下りていくのを見ながら、その後ろをゆっくりと歩いてついていく。流石に、焦凍の話を皆の前でするつもりなんてない。だから、皆のお見舞いが終わるタイミングでお邪魔させてもらおうと、私はリカバリーガール出張保健所近くの通路に隠れながら壁に背を預けた。

「シュジュツー!!!???」

 突然聞こえてきた大声による大合唱で肩が跳ねる。シュジュツ……手術!?いや、一度壊れた指をあれだけ酷使したんだし、何もおかしいことはないのか。思った以上に大変だった緑谷君の容体に驚いた心臓を深呼吸で落ち着かせる。
……緑谷君は、危なっかしい。一番最初の戦闘訓練の時もそうだったし、USJでもそうだったけど、勝つために最善であると判断したら自分の身体のことなんて二の次にしている所がある。必死に前に走り過ぎて、自分が見えていないような……そんな生き急いでいる感じがする。
 皆が保健所から出てきて、揃って観客席の方へ戻っていくのを見送る。完全にいなくなったのを確認してから保健所の前まで来たところで、保健所から金髪の骸骨かって思うくらいにガリガリに痩せた男の人が扉を開けた。
/ 272ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp