第3章 合否通知
今も私の背に腕を回して抱き込む焦凍の顔はリラックスしていて、炬燵でぬくぬく暖まる猫のようになっている。でも、もう私達も高校生になる。なぁなぁでここまで来てしまった男女の距離感についてはしっかりと把握してもらわないと!
「焦凍。こういうこと女の子にしちゃだめだよ?」
「炬燵は皆で使うもんだろ。」
「炬燵の話じゃなくて、今私にしてるみたいに足を絡めたり、密着したりすることだよ。」
言われたことを飲み込むように目をぱちぱちと瞬きさせて私をじっと見つめてくる。数秒の間を置いて綺麗な顔の眉間にしわを寄せると、私の猫クッションを掴んで部屋の奥へぶん投げた。
「あっ、ちょっとなにするの。」
「奏がわりぃ。」
至極まじめなことしか言ってないはずなのに、何が焦凍の機嫌を損ねたのか。リラックスしていた雰囲気は一瞬でイラつきに変わり、抱きしめる腕を強くする。厚い胸板と顔の間にあった猫クッション分の隙間はあっという間になくなって、身動きが取れない。どきどきと心臓が跳ねることも、顔に上がってくる熱を下げることもできない。ほんと、どうしてこうなった。
「ねぇ、どうしたの。」
「……奏は、俺が誰にでもこういうことするって思ってんのか。」
「いや、だって……」
「俺は、こんなこと姉さんにだってしねぇよ。奏だからするんだ。」
お前は、俺の許嫁だろ。耳元で焦凍がそう零す。焦凍のお父さん――No.2ヒーロー、エンデヴァーと私のお母さんに決められた許嫁。その話を聞かされたのは私と焦凍が中学生になった頃だったけど、話そのものは3歳くらいの頃に決定されていたとかなんとか。
話を聞いた時はめちゃくちゃびっくりしたけど、私はその決定に対して不満は一切持っていない。むしろ都合がいいとも思ってしまった。一緒に聞いていた焦凍はエンデヴァーさんを睨んでたし、この件についてお互い話し合うこともできなかった。だから、もうこの話はなかったことになってると思ってたのに。突然のカミングアウトで頭が真っ白になってる。
「いいの?焦凍はそれで。」
「正直、親父が決めたってのは納得いかねぇ。けど、誰かに取られるくらいなら先にこうして繋いどく。」
「焦凍、それって……」
「どうした?」
「……なんでも、ない。」