第11章 チアリーダーと、シリアスと、ガチバトル
場外に落ちたら負けになるこのルールなら、私に投げられた時点でほぼ詰みになる。ただ一人、爆豪君を除いて。爆豪君が相手の時は、気絶狙い、もしくは降参してもらうしかない。
試合も無事に終わったし、勢いよく飛ばしてしまった芦戸さんの元まで行って手を差し出す。にへら、と眉を下げて笑った芦戸さんは私の手を取ってゆっくり立ち上がった。
「あ~あ、負けちゃった。奏ちゃんが速いの知ってたのに、悔しいな!」
「スピードには自信があるから、そう簡単には追い付かせないよ。」
お互いに、一度フィールドに戻って礼をすれば私達の試合はおしまい。互いに背を向けてゲートの方へ足を進める。次の試合は誰だったか……思い出そうとしても、ちょっと思い出せそうにない。とりあえず、控室に置いてきてしまったペットボトルだけ取りに行こう。
控室に寄り道して机の上に置きっぱなしにしていたペットボトルを取る。通路に出て、そっと扉を閉じると、「至情さん。」と呼びかけられた。
「……緑谷君。」
「ごめんね、急に。でも、どうしても確認したいことができたんだ。」
私を射抜く緑谷君の顔は、色んな感情がごちゃ混ぜになったような、不思議な顔をしていた。けれど、その中でも一番強く私が感じたのは、もしかしたら怒りかもしれない。
私に、緑谷君を怒らせるような何かをした記憶はない。だから、普通なら理不尽に向けられる怒りに付き合うなんて馬鹿らしいことかもしれない。だけど、私はそんな緑谷君に笑みを返す。
「ここだと次の人の邪魔になるし、焦凍と話してたゲートの方に行こうか。」
互いが何も話さない空間は、防音がしっかりされたスタジアム内でも遠くの歓声が聞こえてくる程に静か。黙々と歩いていけば、目的のゲートにはすぐに到着した。あの時、焦凍と緑谷君が話していたように、私と緑谷君は壁を背にして向かい合う。
「それで、確認したいことって何かな。」
「先に謝らせて。僕は、至情さんがエンデヴァーに引き取られているってオールマイトから聞いたんだ。あの、特訓の後に。それと、轟君が言ってた“個性婚の道具に何かさせない”って言葉。……至情さんは、轟君の相手として引き取られたの?」