第11章 チアリーダーと、シリアスと、ガチバトル
静かな試合から一変。“人を操る個性”から抜け出し、一本背負いを決めた緑谷君に向かって観客からの熱い声援が降り注ぐ。
『IYAHA!!初戦にしちゃ地味な戦いだったが!とりあえず両者の健闘を称えてクラップユアハンズ!!』
確かに、地味だった。けど、なんだろう。フィールドにいる緑谷君と心操君の苦しい表情を見るに、当人達にとっては凄い試合だったんじゃないかな。それを知るすべは、私にはないけれど。……次の試合は、焦凍か。試合前に会いに行こうかな。
静かに席を立って、控室のある方へと足を進める。試合と試合の間のインターバルは、大体15分とトイレ休憩くらいの時間しかない。まぁ、ひとこと“頑張って”って言うくらいだし、別に構わないよね。
ほんの少し前に上ってきた来た階段を降りて、関係者以外立ち入り禁止!と書かれた通路に進む。リカバリーガールの出張所を通り過ぎれば、控え室はすぐそこ。ノックをしようと腕を上げる。
「わかってるのか?兄さんらとは違う。お前は最高傑作なんだぞ!」
控室の少し奥の分かれ道。スタジアムへ通じる通路があるそこから聞こえたのは、間違いなくエンデヴァーさんの声。どうしてここに。いや、それ以上に、どうしてそんな酷いことを焦凍に言うんですか。貴方にとって、焦凍はただの道具なんですか。
言いたいことがぐるぐると胸の中を焼き焦がして気持ちが悪い。焦燥感に駆られるままスタジアムへの通路に飛び込むと、そこにはもうエンデヴァーさんしかいなかった。
「……奏か。焦凍ならもう行ったぞ。」
「焦凍は!焦凍は、貴方の道具なんかじゃないっ……!」
ぐっと睨みながらそう言うと、エンデヴァーさんは大きくため息を吐いて私の横を通っていく。
「またその話か。いいか奏、お前の立場を忘れるな。お前のその“個性”を俺は買っている。だが、決してお前でなければならない訳ではない。忘れるな、どうしてお前が焦凍の傍にいることを許されているのかを。」
「っ……!」
大きな威圧感が、ゆっくりと私の後ろを通って観客席の方へと戻っていく。……わかっている。私が焦凍の傍にいられるのは、個性婚ありきだ。そうでなかったのなら、私は今頃どこかの孤児院にでも預けられてる。そんなこと、わかってる。それでも……
「焦凍を、救けたかった。」