第10章 騎馬戦、開幕!
でも、それでもエンデヴァーさんは止まらない。せっかくできた最上の仔の個性を、更に強く。その為に宛がわれたのが、私。父の“活性”でも、母の“ドッペル”でも、エンデヴァーさんには都合がよかった。いざ私を引き取ってみれば、両方を併せ持つ複合個性。母に忌避された個性が、違う家の父親には手放しで喜ばれるだなんて……酷い皮肉だと思う。
エンデヴァーさんが行ったことを全て話した焦凍は、強く眼前を睨みつける。まるで、そこにエンデヴァーさんが見えているかのように。
「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで、自分の欲求を満たそうってこった。うっとうしいっ……!!俺はそんな屑の道具にはならねぇし、奏を“個性婚”の道具にもさせねぇ!記憶の中の母はいつも泣いている……“お前の左側が醜い”と、母は俺に煮え湯を浴びせた。」
緑谷君の顔から血の気が引いて、白く染まる。緑谷君、貴方はとても優しい人だね。焦凍の過去を聞いて心を痛めてくれている。私は、それが……とても嬉しい。
焦凍が明かさずとも、内容をぼかして伝えるつもりではいた。そうして緑谷君の優しい心を利用して、焦凍を救ってもらうつもりだったから。でも、もうその必要もない。緑谷君は全てを知った。ねぇ、優しい緑谷君。もう、貴方は放っておけない。そうでしょう?
「……ざっと話したが、俺がお前に突っかかんのは見返す為だ。クソ親父の個性なんざなくたって……いいや、使わず一番になることで!奴を、完全否定するっ……!!」
「焦凍……」
焦凍の悲しみと憎しみのこもった言葉が、焦凍自身をズタズタに切り裂いていく。焦凍の左、半燃の力は、決してエンデヴァーさんの力じゃない。例え、その個性がエンデヴァーさんから遺伝したものだとしても、それは焦凍自身の力。焦凍を、形作るものの一つなのに。
ねぇ、焦凍。憶えてる?小さい時、左の炎を私に見せてくれた時があったよね。その時も、この炎が嫌いだって言ってた。私が返した言葉を、焦凍は憶えてる?……例え憶えていたとしても、きっと些細な事よね。
ただ哀しくて、繋いだ手に力を籠める。“大丈夫だ”、そういうように焦凍の指先が私の指を撫でるのを感じながら、そっと目を閉じる。