第10章 騎馬戦、開幕!
つい焦凍の手を握ってしまったけど、私が焦凍の誓いを哀しいと感じていることがバレてないといい。焦凍の望む、絶対的な味方でいないといけないから。気付かれないように、細く、長く、息を吐く。ゆっくりと気持ちを落ち着かせて、目を開けば――ほら、いつも通りの私でいられる。
「言えねぇなら別にいい。お前がオールマイトの何であろうと、俺は右だけでお前の上に行く。時間取らせたな。……奏、行こう。」
「うん……。」
焦凍に手を引かれ、俯いて言葉を失った緑谷君に背を向ける。ゲートから外に出て数歩歩いた時、ジャリッと靴が砂を踏む音が後ろから聞こえた。
「僕は……ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ……僕は、誰かに救けられてここにいる。」
そっと風に紛れて消えてしまいそうな、静かで柔らかい声。なのに、なぜか耳を逸らすことができない。足を止めて、ゆっくりと焦凍と一緒に緑谷君の方へと振り向く。
「オールマイト……彼のようになりたい。そのためには、1番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら、些細な動機かもしれない……。でも、僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人達に応える為にも……!」
ぎゅっと右手に握りこぶしを作り、その手を支えるように左手が触れている。焦凍に向ける目は凪いだように淀みがなく、それでいて強い光を灯す。
「さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも……僕も、君に勝つ!」
「……。」
真正面から緑谷君の宣戦布告を受け止めた焦凍は、何も言わずに前を向いて歩きだす。くんっと引っ張られるように私も歩き出して、今度こそ食堂の方へと歩き出した。