第10章 騎馬戦、開幕!
流石ヒーロー博士の緑谷君、よく見ている。焦凍は絶対に左を使わない。私達が左をキープする以上、焦凍達は直に近づいて取りに来るしかない。でも、それはダークシャドウで牽制することができる。
緑谷君の観察眼は鋭く、相手の些細な行動から移動や攻撃のタイミングを読み切ってくれる。私達は、ブレインの指示に合わせて必死に足を動かした。
――
『残り時間1分!轟、サシのフィールドに誘い込み、あっちゅう間に1000万奪取!――かと思ってたよ、5分くらい前までは!緑谷、なんとこの狭い空間を5分間も逃げ切っている!』
じりじりと、焦凍の左側をキープしながら互いに睨み合う。緑谷君の合図で動けるように張りつめた緊張の糸と熱気が汗を作り、背中をじわりと濡らす。
この5分間の攻防の間に、ダークシャドウが上鳴君の放電で気弱にされてしまった。でも、その事を焦凍達は知らない。一度攻撃を無力化されたから、これ以上の放電は上鳴君が反動でアホ化する可能性が高いと焦凍は判断したはず。こちらにとって都合の悪い放電は、もうないとみていい。
氷結や放電。持っていた攻撃手段をことごとく封じられ、決定打が無くなった焦凍は目に見えて焦っている。このままいけば、無事に守りきれる。そう思った時、飯田君が突然クラウチングスタートの姿勢を取る。ここで、スピード勝負!?
「レシプロ、バースト!!」
飯田君のエンジンが火を噴いた途端、飯田君の姿が眼前に肉薄する。それを脳が把握する前に私の身体が反射的にしゃがみ、緑谷君の体勢をわざと崩して鉢巻きの位置をずらす。
靴底が激しく土を削る音が私達の耳に届く。音の発生源である私達の背後へと視線がゆっくりと動く。そこにいた焦凍の手にある物、それは緑谷君の頭に巻かれていたはずの1000万だ。
『んな~~~!?速っ!はっや!?飯田!そんな超加速があるなら、予選で使っとけよー!!!』
なんて、超加速!目で追うのがやっとだった……!あのポイントを逃した今、私達の持ち点は0。残り時間も1分を切っている。もう、後がない!
「至情さん、突っ込んで!」
「だめだ、緑谷!上鳴がいる!これ以上、攻めでは不利だ!他のポイントを狙いに行く方が堅実では!?」
緑谷君の悲鳴のような声を聞いて突っ込もうとしたのを、常闇君の足が阻む。上鳴がいるのは分かってる、でも!