第2章 入試試験
終了の合図とともにサイレンが鳴り響く。これで、もうお邪魔が動くこともない。きりきりと張りつめさせた緊張を解いてその場に座り込んだ。訓練が終わった後に核石を確認するのは、もう癖のようなもの。じっと手の甲を見ていると救助を手伝ってくれた受験生達が私の近くに集まってくる。
「おい、あんたすげぇな! 空飛んでたし、めちゃくちゃ速かった!」
「増強系の個性か?」
「よくあんな馬鹿でかいロボットに突っ込めたな! おかげで助かったよ!」
割りと派手な大立ち回りをした自覚はあるけど、まさかあのパニックの中でそんなに見られているとは思ってなかった。一体感を感じた後だからか、それともピンチを切り抜けたからか……テンションが高めな彼らに苦笑で返す。
「さっきのは“エネルギー操作”、どっちかっていうと操作系に入るんじゃないかな。運動エネルギーを増加させて加速したり、生命エネルギーを増加させて筋力増強や治癒力の増強ができるよ。範囲は視認だから、他人のブーストもできる。」
「他人も強化できるのか!? RPGのバッファーみたいだな。」
「それはよく言われたかな。」
今の時代、人口の約8割がなにかしらの個性を持っている。だから、こうした話の中で個性に関する話題がでてくることはよくある。特に、雄英なんて受けようっていうのだから強い個性の話が大いに聞ける。お互いの個性について少しだけ話し合っていると、演習場入り口側のざわめきが大きくなる。取り囲んでいる人達の足の隙間から覗くように注視すると、背の低い注射器型の杖をついたおばあちゃんがしっかりとした足取りでこちらに近づいてきていた。
「あ、あの人知ってる。リカバリーガールだ。」
「雄英の看護教諭だっけ? 治癒の個性持ちの。」
「こんな無茶な試験やれるのも、あの人がいるからか。」
私への興味は、珍しい治癒の個性を持つリカバリーガールの方へと流れていく。あまり目立つのは得意じゃないから、ありがたい。唇を伸ばして怪我をした人達の治療にあたっているリカバリーガールを尻目に立ち上がり、演習場から出ていこうとジャージについた砂や砂利を手で払いながら入り口の方へと足を向けた。