第2章 入試試験
普段個性の使用を禁止されている学生が、あんなモノを相手に戦えるわけがない。現に、巨大ロボットの出現で受験生たちはパニックに陥って悲鳴を上げながら逃げ惑っている。中には我先に逃げ出そうと前を走る人をどついて逃げる人までいる。状況は最悪と言っていいくらいには酷い。幸い、ロボットの歩みは遅い。足止めして、ロボットが追ってこないと分かればこの混乱も抑えられるはず。
簡単に脳内でシミュレーションした後、ビルからパニックになった大通りへと飛び降りながら喉が潰れるほどに大きく叫ぶ。
「私が足止めします! 私より後ろには必ず通しません! ですからパニックにならずにこの通りを離脱してください!」
スタートダッシュと同じ手順で空を蹴り、そのスピードを個性でぐんぐん加速させる。ロボットは巨体なだけあって関節も大きく、狙いやすい。私が今出せる最高スピードで突っ込みながら腰を、関節部分を、斬って破壊する。一歩たりとも、その位置から移動させない!
空気のエネルギーを奪って足場を作り、トップスピードを維持しながら縦横無尽に飛びまわる。腰から下、左側の関節部分をひたすら斬り刻めば、体重を支えきれなくなったロボットは左のビルに寄りかかるように体勢を崩し、ビルを倒壊させながら倒れていく。
「怪我人はいませんか!」
道路に降り立ち、がれきだらけの大通りを見回しながら呼びかける。できるだけ早めに行動はしたつもりだけれど、私が来る前にがれきに潰された人がいないとも限らない。ロボットも立てはしないだろうけど転ばせただけだし、他のビルを倒壊させるまえにここを離脱しなければ。
「おい、お前らも手伝え! 誰かいないかー!」
離脱しきれなかった他の受験生ががれきに近づいて同じように声をかけ始める。それに釣られるように1人、また1人とがれきを見回る人が増えて、無事にコンクリートに挟まれた受験生達を救出することができた。あれだけパニックになっていたとは思えないほどの連携に胸を撫で下ろす。元々、ヒーロー科を受験する人ばかりなんだし、お人好しばかりのはず。皆試験も危険もないならこうして手伝って――そこまで考えて、はっとする。この試験、ヒーロー科よね。人を救ける、ヒーローになるための学科。じゃあ、この状況って――
『試験、終了―!』