第9章 体育祭、開催!
「緑谷君、1位おめでとう!随分無茶やるね?私や爆豪君以外であんな飛び方する人いないと思ってた!」
「うん、かっちゃんの爆速ターボを参考にしたんだ。運よくロボットの外れた装甲を持ってたから……。」
緑谷君は少し照れたようにそう言うと、自分の手をじっと見つめて握り締める。その顔つきはさっきとは一変して少し強張っていて、なんだか自分を追いつめているような気がした。
何が緑谷君を追いつめているのかは分からない。それがわかるほど傍にいる訳でもないし、知っている訳でもない。ただ、せっかく1位を獲れたんだし、もう少し自分を褒めてあげてもいいんじゃないのかなって、そう思った。
私達がゴールしてから、次々と他の人達もゴールしてくる。デクくーん!と緑谷君を呼ぶ声が聞こえてそっちを見ると、麗日さんが大きく手を振りながらこっちへ向かってきているのが見えた。二人の邪魔をするのは野暮だし、声を聞いて顔を上げた緑谷君にひとこと断ってその場を離れる。向かう先は、一人離れた場所にいる焦凍の所。
「奏か。」
「お疲れ様、焦凍。」
「まだ予選だろ。」
「そうだけどさ。」
身体を休めている焦凍に近づいて声をかけるとそっけない言葉が返ってきた。多分、私や緑谷君に抜かされたのがそうとう悔しいんだと思う。ぷいっとそっぽは向くものの、隣にいることは拒否してこないから遠慮なく隣に体育座りをする。右手を左手で覆うように膝を抱くと、そっぽを向いていたはずの焦凍が見えない右手を凝視している。
「大丈夫か?」
「平気だよ。心配なら見る?」
「見る。」
見やすいように私の右隣へ移動し、座った焦凍の前に右手の甲を晒す。そのまま見るものだと思ったら、その手を丁寧に取って眺め始めるものだからとんでもなく恥ずかしい!恥ずかしさで手を引こうとしたら、動かすなと言わんばかりにぎゅっと握られてしまう。羞恥心で余計な手汗までかいている気がする……。
焦凍の方を見れなくて、自分の足元を見ながら早く時間が過ぎ去ってくれることを祈った。
「結構派手に使ってた割りには平気なんだな。」
「あれでも節約したからね。まだまだ余裕だよ。」