第9章 体育祭、開催!
「轟君が、何を思って僕に勝つって言ってんのかはわかんないけど……そりゃ、君の方が上だよ。実力なんて、大半の人には敵わないと思う。……客観的に見ても。」
「緑谷も、そういうネガティブな事は言わねぇ方が――」
俯いたまま、ネガティブな事を言う緑谷君を切島君が慰めようと声をかける。でも、その声を「でも……!」と小さな、そのくせ強い意志を宿した言葉が遮る。
「皆……他の科の人だって本気でトップを狙ってるんだ。……遅れをとるわけにはいかないんだ。」
ぎゅっと手を力強く握るその姿に、ゆっくりと顔を上げるその姿に、私に手伝いを頼んできた時の緑谷君の姿が重なる。ああ、あの瞳だ。キラキラと輝く、夢を追う人の瞳。その視線を受け止めるように、焦凍は緑谷君の方へ向き直る。
「僕も本気で獲りにいく……!」
「……おお。」
じりじりと、互いの気迫をぶつけ合う。譲れないものがお互いにあるから。その熱は、どこか傍観者のように見ていた私の心に炎を灯すには十分だったらしい。そう、私は一番になんて興味はなかった。焦凍の隣に居れれば、それでよかった。なのに……なのに、確かに今思ってしまった。あの中に混ざってみたい。……一番を、目指してみたいって。
何の為に?って聞かれたら、わからないって答えるしかない。でも、目指そうって思ったのは確かなこと。こんなの、私だってやる気を出すしかないじゃない。口元が上がっていくのを隠せない。ああ、やっぱり私も負けず嫌いだ。
「……はっ!皆、入場の時間だ!さぁ、列を作って入場口へ急ごう!」
完全に雰囲気に飲まれていた飯田君が再起動する。ぴしっぴしっと手を垂直に動かしながら私達に列を作らせ、そして入場口へと先導する。とうとう、始まる。私達の体育祭が!
プレゼントマイクの、常人よりも!マークが一つ、二つ多そうなアナウンスが会場に響き渡る。とうとう始まるのだと察した観客達の上げるテンションの高い声が入場者ゲートにいる私達の元へと届いてくる。
ぞわぞわとした感覚が、私の背筋を撫でて震わせる。緊張なんかじゃない、この熱は迫りくる試練への武者震い。ぎゅっと手を握り締めて、私達が呼ばれるその時を待つ。