第9章 体育祭、開催!
「皆!準備はできているか?もうじき入場だ!」
丁度外に出ていた飯田君が勢いよくドアを開けて私達にそう告げる。ああ、やっと体育祭が始まるんだね。緊張に支配された峰田君や緑谷君が自分を落ち着かせようと必死になっているのを見て、隣にいた焦凍が動いた。
「焦凍?」
私の声に焦凍は返事を返すことも、振り返ることもしない。焦凍が向かう先にいるのは、深呼吸をゆっくりと繰り返す緑谷君。
「緑谷。」
「と、轟君……?何?」
自分が呼ばれるとはちっとも想定していなかったらしい緑谷君が少しビクつきながら顔を上げた。
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う。」
「へっ!?う、うん……。」
「けどお前、オールマイトに目をかけられてるよな。」
焦凍を見る緑谷君の顔は困惑でいっぱいになっていた表情が、驚愕に変わる。ちらりと緑谷君の確かめるような目が私に向けられたけれど、それに対しては首を横に振ることで答える。私が緑谷君のお手伝いをしたことは言ったけど、オールマイトが監督として来てくれたことについては何一つ言っていない。
「別に、そこ詮索するつもりはねぇが……お前には勝つぞ。」
クラス最強による、緑谷君への宣戦布告。例え緊張が場を支配していたとしても、これだけの話題を見てクラスがざわつかないはずがない。好奇心で目を輝かせながら囃し立てる上鳴君を置いて、切島君は敵対心を燃やす焦凍を落ち着かせようと焦凍の肩を掴んだ。
「急に喧嘩腰でどうした!?直前にやめろって……」
「仲良しごっこじゃねぇんだ。何だっていいだろ。」
冷たく返し、手を振り払った焦凍は二人に背を向けて私の方へ戻ってくる。表情は相変わらずの無表情に見える。けれど、瞳には暗い炎が揺らめいているように見えた。緑谷君にエンデヴァー関連の何かを感じた?……いや、私ならともかくエンデヴァーさんと接点はないはず。もしあったなら、昨日私に緑谷君の名前を出している。なら想定していた通り、焦凍はこの体育祭でエンデヴァーさんを完全否定するつもりなのかも。
宣戦布告をされた緑谷君の様子を伺ってみるけれど、俯いている。でも、緑谷君はこの程度で折れたりなんかしない。今までの彼の行動が、それを証明していた。