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人魚姫は慟哭に溺れる【ヒロアカ※轟夢】

第8章 体育祭、その前日譚


「焦凍、お願い。……私を、嫌わないで。」
「……ああ、大丈夫だ。奏を嫌ったりなんかしねぇ。」

 何を言われたのか、何を話したのか、何をしているのか……焦凍に何一つ明かすことはできない。そのくせ、酷くずるい私は焦凍に自己満足な願いを押し付ける。優しい焦凍が手を振り払えないのをいいことに、言質を取ろうとする。案の定、焦凍は私を受け入れて嫌ったりなんかしないと欲しい言葉をそのままくれた。これは、ただの口約束。後で幾らでもなかったことにできる。それでも、焦凍はなかったことにはしない。私を嫌うことはないんだろう。安堵する心に醜さを感じながら、それでも尚安堵することを止められない私はゆっくりと焦凍の胸から顔を上げた。

「ありがとう、焦凍。もう大丈夫。」
「そうか。無理はするなよ。」
「うん。おやすみなさい、焦凍。」
「おやすみ。」

 焦凍の身体から離れて、ゆっくりと自室へ向かう。もう、大丈夫。焦凍は私を嫌わない。まだ、私は焦凍の隣に立っていられる。深く深呼吸をしてからベッドにダイブし、枕にすり寄る。もう、寝て起きたら体育祭が待っている。エンデヴァーさんに壁になれって言われたけど……どうしようかな。考えはするものの、ゆっくりと忍び寄る眠気に抗えずにそっと瞼を落とした。

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