第8章 体育祭、その前日譚
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ゆらり、ゆらりと沈んでいく。暗く、光の入らない深海へ……私の深層心理へと。目を開ければ、いつもと同じ音楽ホール。舞台の中心でサーベルを振るう騎士の私。ライトアップされた騎士の私、その足元から伸びる幾つもの影。
影は笑って、嗤って、泣いて、嘆く。求めるように光へ手を伸ばしては、口から声にならない声を上げる。それでも何を言っているのかわかってしまうのは、これら全てが私だからなのか、それとも……これが、私の見る夢だからなのか。わからない。わかりたくない。
“焦凍”
“私を見て”
“どうか、愛して”
ああ、なんて醜い!影がその名前を、言葉を、感情を、一つ一つを表すだけで身を焦がす程の増悪と憧憬が湧き上がる。その感情のままに、私はサーベルを天高く掲げる。
「お前達如きが、その名を汚すな。」
振り上げた刃がライトの光を反射してキラリと輝く。感じる既視感。重なる情景。あの時、あの場所で、お母さんが振り上げた刃はどうなったんだっけ?
「しょう……」
戸惑いは影の発した言葉で掻き消えた。振りかざした刃は寸分違わず影を切り裂いた。心の淀みが消えていくような、スッとした気分が私を満たす。ああ、理解した。これらがいけないのだと。
「この場から、いなくなって。」
振るう、振るう、ひたすらに刃を。まるで踊るように。影は切り裂いたところで血飛沫すら出てこない。それはそうか、だって、影だもの。
右へ、左へ、くるくる回る。一振りすれば影は倒れていく。面白いくらいに。
そういえば、今舞台に立っているのは私。騎士の私はどこへ行ったんだろう。
“おかあさん”
“どうして、私を――”
まぁ、いいか。どうでも。今はただ、これらが煩わしい。そうして、サーベルが最後の一人を切りつけた。
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