第2章 蟲睦村(むしむつむら)
とある山にある村の近くにある森の中、朝陽が湖を照らす。
水面は陽の光を反射し、美しく輝いている。
そこへ緋袴に身を包んだ少女がやってきた。
(夢…とても大切な内容だった気がするのだけれど…)
彼女の名は。この湖のすぐ近くにある小屋の家主である。そして村人達から"蟲姫"と奉られている存在。
が蟲姫などと呼ばれるようになったのは彼女が有する能力ゆえなのだが、村人達はそれを気味悪がって山の湖まで彼女を追いやった。
彼女がいた村は蟲を視ることが出来る人間が多く、また蟲師達もこの村をよく利用していた。
蟲がどういう存在なのか理解しているからこそ、彼女の能力は受け入れられにくかったのだろう。
簡単な命令ならば蟲たちを従わせることの出来る能力。それは村人達の恐怖心を駆り立てるには十分だった。
澄んだ湖を少し眺め、今日も変わらぬ一日が始まると心中で呟き、小屋の中へ戻っていった。
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一方、山の中に大きな木箱を背負って歩く男が一人。
彼の名はギンコ。蟲を寄せる体質を持つ蟲師だ。
「思ってたより険しいな。こりゃ今日中に降りるのは難しいか」
そんなことをボヤきながら山道を進む。ふと空を見上げると何やら雲行きが怪しくなっていた。
「…今日はついてないねぇ」
げんなりとする気持ちを抑え、そういえばこの辺りは蟲師の間でも有名な村があったことを思い出す。
「確か名前は…蟲睦村(むしむつむら)だったか」