第4章 旅立ち
瞬間、湖の周辺を少女の瞳と同じ美しい翠(みどり)色の光が包み込んだ。水面は光を反射し、より一層輝きを増した。
「…皆さよなら」
少しの倦怠感を感じながら湖を後にし、ギンコさんと待ち合わせをしている場所へ急いだ。
一方、村へと向かったギンコはというとの両親が暮らす家に出向いていた。
「私は蟲師のギンコと申します。昨日蟲姫が住まう小屋に泊めて頂いた者です」
「はぁ…その方がうちに何用でしょうか」
「蟲姫が亡くなりました。死因は村の子供が投擲してきた刃物に首筋に裂傷を受けたことによる出血死です」
はっと息を呑む彼女の両親。どうやら娘のことをなんとも思っていなかった訳では無いらしい。
「一応、こちらで土葬はしましたが詳しい場所まではお教えできません。それが彼女の望みでしたので」
「そう、ですか。わざわざありがとうございました」
「それでは、私はこれで」
一礼しの両親に背を向けて歩き出す。遠ざかっていく背後で、すすり泣くような声が微かに聞こえた気がした。
「待たせたな」
「うまく行きましたか?」
「まぁな。を紹介したい奴がいるから、そこから先に行くか」
「はい」
ギンコさんと並んで歩き、1度だけ村を振り返る。
もう戻ることのないであろう村。未練が全く無いわけではない。しかし、私はこの村を出ることを選んだんだ。自分の意思で。
再び前を向き、ギンコさんの服の袖をちょこっと掴む。
「?」
「すみません。少しだけ…」
声が震えないようにそれだけ伝えて足を進める。
するとギンコさんから袖を掴む私の手を優しく握ってくれた。互いに何も言わずそのまま歩き続けた。
胸がほのかに暖かくなるのを感じながら。